第17話 報恩感謝




 リビングで与太話を交えながら自衛隊の皆と話をする。

 実験に付き合えと言っておいて、ただおしゃべりをするだけの状況に、若干当惑しているようだが、今の所説明するつもりは無い。


 おしゃべりしながらもやることはやったけどているのだ。

 具体的に言うと、まず今回は事前にアポを取って来訪時間が分かっていたので、分身で赤竜を窒息させる仕込みを事前にしておき、来訪と同時に自衛官の面々に今持っている経験値を分配。


 レベル1に戻した直後に赤竜の討伐が終わる。分身もスキルは使えるので、無限収納でドロップを回収してもらった後、一旦ダンジョンから出てボス部屋をリセット。再度窒息の仕込みをする。


 本体の方で再び入った経験値を自衛官に分配。

 共有スキルやステータスは口にしたり、ウィンドウに直接触れなくても考えれば実行できる。そして、目を瞑っていても見えるという特性があるので、時々考えるふりをして目を瞑ったりしても癖だと思うくらいだろう。


 まあ、気付かれたからと言って別に困る話でもない。


 ダンジョン内は時間の流れが早いので、AM10:20には二回目の経験値が入り、AM11:40には三回目の経験値が入った。これで目標の5,000万越えの経験値をゲットである。


 自力で赤竜を倒したときを含めて、合計で五回分の経験値56,166,202が今手元にある。計算上レベル999に必要な経験値は50,848,100で、5,100万あれば1,000に手が届く。


 そこまでキープして、残りの500万程の経験値は樋口さん含めた6名の自衛官に均等分配する。6で割って余った3は樋口さんに入れたが誤差の範囲であろう。


 結果的に自衛官のレベルは以下の通り。


 名前  樋口 麦(ひぐち むぎ)

 レベル 125

 ロール 女騎士

 スキル 鼓舞(Lv.3)、簡易鑑定(Lv.3)


 名前  米山 信(よねやま しん)

 レベル 122

 ロール チャンピオン

 スキル 直感(Lv.3)


 名前  黍原 義明(きびはら よしあき)

 レベル 122

 ロール 斥候

 スキル 鷹目(Lv.2)


 名前  大豆生田 智志(おおまめうだ さとし)

 レベル 122

 ロール 守護者

 スキル 渾身(Lv.2)


 名前  麻井 仁一(あさい じんいち)

 レベル 122

 ロール 狩人

 スキル 狙撃(Lv.2)


 名前  胡麻 風(ごま かぜ)

 レベル 122

 ロール 魔女

 スキル 魔眼(Lv.1)


 ついでに神託Lv上げも兼ねて、全員のスキルを鑑定させてもらう。



 鼓舞   …… 周囲の探索者の攻撃にLv×10%のダメージボーナスを与える。

 簡易鑑定 …… 探索者、敵性体の名前、レベルがわかる。自分よりLv×10上のレベルの相手まで確認可能。

 直感   …… 対象に対する自分の優位度を察知できる。Lv×2m範囲。

 鷹目   …… 半径Lv×10m範囲内の敵性体の位置が分かる。

 渾身   …… Lv×1%の確率で与ダメージ1.5倍。

 狙撃   …… 遠距離攻撃にレベル×1%の標準補正。

 魔眼   …… 自分より低レベルの敵性体にLv×10%の行動阻害。


 うちのクソダンジョンではレベルアップの恩恵を今一つ感じられないが、もうちょっとまともなダンジョンなら攻略の一助にはなってくれると信じている。


『レベル999の達成を確認しました。特典としてスーパーレアスキルを進呈します。更なるご活躍をお祈りします』


 ふむ。レベルカンストの特典はSレアスキルか。


 名前  凍野 杏弥(いての きょうや)

 レベル 999

 ロール 預言者

 スキル 神託(Lv.2) 鑑定(Lv.1) 熱耐性(Lv.1) 奇跡(Lv.1) 心眼(Lv.1) 天罰(Lv.1) 偽装(Lv.1) 再生(Lv.1) 共有(Lv.1) 分身(Lv.1) 無限収納(Lv.1) 泳者(Lv.1) 召喚(Lv.1)

 称号  不撓不屈 逸般人 竜殺し 殲滅者 到達者


 召喚スキルと到達者の称号。レベル1,000に到達するだけの経験値は持っているから、やはり999がカンストなのだろう……。ただ、経験値がレベル上限に到達する以上に所持できているのがなんだか気になるな。


 後々、レベル上限突破的なスキルが出てくる予感がする。

 そうなるといよいよ青天井だな。


 ステータスは偽装してるので、取り敢えず表面上は取り繕えているはずだが。

 例のランキングを見れるスキルとやらの表示がどうなっているのかは少し気になるが、まあ、今更また一位になっていたところで後の祭りである。


 一度目立ってしまったのだし、取り繕ったところで覆水盆に返らずだろう。


「さて、実験も終わりましたし、情報交換もできました。お帰り頂いて結構ですよ」

「実験は、してましたか? おしゃべりしていただけですけど」

「ええ、無事終了しました。ご協力頂きありがとうございました」


 小首を傾げる樋口さん。

 まあ、外見からでは分かるまい。


「樋口三佐……。ステータスを」

 気付いたらしい米山さんが、震える声で呟く。


 そして、恐らくは視界に入る全員を一度に簡易鑑定したのだろう。

 強張った顔で固まった。そして、ぎちぎちと軋んだ音が成りそうなほどぎこちなく、こちらに向き直る。


「凍野さん。あなた、一体何を」

「ささやかながら、自衛隊のみなさんへご協力頂いたお礼を兼ねた支援と言ったところです。うちのクソダンジョン、おっと口が悪かったですね。品の無い難易度のダンジョン攻略では今一つレベルの意味が無いというか、上げたところで即死しかしないので、実感が湧かないんですが、皆様に活用して頂ければ幸いです」


「……これ、は。その、お礼というにも余りにも」

「まあまあ、有効に活用して下さいよ。出来ればレベルが上がった所感をフィードバックしてくれたり、情報共有頂ければこちらも助かります。今後とも宜しくということで、いいんじゃないですかね?」


「分かりました。今後とも、宜しくお願いします。それと、コピーの件では恐らく一度上のものと話をして頂かなければならないと思います」

「え。誤魔化せません?」

「無理です。悪いようにはならないように、最大限努力はしますので」


「マジで頼みますよ。善良な一般市民アピールしておいてください」

「これだけご協力は頂いていますので、それは勿論」

 まあ、とはいえ海千山千の方々が上にはごまんといるのだろうし、上手くいくことを祈るしかないが。


「では、ありがとうございました」

 樋口さん以下六名の自衛官を見送り、先行きについて天に祈るのだった。




 ◇◇◇◆◆◆




 その日の夜、子供たちを寝かしつけた後に二階層に潜る。

 分身を出した状態で、フロアを進んでいく。入口近くの敵性体に近付いて行くと、明後日の方向から何かが高速で飛来した。


 心眼の感知範囲は現在半径10m。そこから自身に到達するまで一秒どころか0.1秒あったかも怪しい速度だ。

 さすがに二回目で警戒しているというのもあって、辛うじて躱して鑑定を使う。


 名前  アサシンバード

 レベル 125

 スキル 必殺(Lv.9)


 必殺 …… Lv×10%の確率で攻撃判定を与えた相手のHPを0にする。


 何というクソスキル。

 レベル差で対抗出来ると書いてないことから、レベルの高低は無意味。Lv.9ということは、90%の確率で即死するということだ。


 しかも攻撃判定があればということなので、かすり傷程度でもスキルが発動すると思われる。


「あの速度で動く敵が持ってて良いスキルじゃないだろ!」

 一旦躱したが、感知範囲外から来られては如何ともしがたい。次がどこから来るかも分からない。

 あんなのばっかりじゃないだろうなとげんなりしていると、正面からのそのそとでかい犬みたいなモンスターが現れた。


 名前  グレイウルフ

 レベル 132

 スキル 石化(Lv.9)


 石化 …… レベル×10%の確率で攻撃判定を与えた相手を石化状態にする。


 石化状態がどういう状態か分からないが、基本的にこれも即死だろう。

 グルグル唸っている体長5m程の灰色狼。めっちゃ怖い。


「バウッ!」

 咆哮と共に飛びかかってくる。

 先程のアサシンバードの時も感じたが、心眼のせいかレベルの恩恵か、本来であればこのサイズの野生動物の動きなど、見切れるはずもないのに反応できる。


 空中に浮かび上がって、噛みつこうと開けている大口に無限収納から赤竜の爪を取り出す。

 突然現れた巨大質量に顎の骨が外れると同時、出てきた爪の先が丁度脳天方向だったため、頭を貫いて即死する。


 そして、グレイウルフとの戯れの隙を狙うかのようにまた、アサシンバードが飛来するが、今度は先程より冷静に、無限収納から取り出した赤竜の鱗でガードする。


 アサシンバードのハチドリのように尖った嘴が砕け、頭が潰れて自壊する。


 次の瞬間に、二体の魔物の死体が消えて、アイテムがポップしていた。


 ・グレイウルフの毛皮

 ・アサシンバードの嘴


 先程砕け散った部位がアイテムとしてポップするのに違和感を覚えつつも、まあ、そういうものなのだろうと割り切る。無限収納に雑に突っ込んで、探索を続行した。




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