第12話 万里一空




 9/19。

 先行きに関して、もやもやとした気持ちを抱えながら仕事を終え、帰宅して子供たちを寝かしつけた後にいつもの探索時間。


 結論を先延ばしにすることで悲劇が自分の身の回りに降りかかり、後悔することも十分にあり得る話だが、それでもまだ焦る段階では無いと思いたい。


 急いては事を仕損じる、とも言うし。


 まずは足元の確認からだ。

 出来ることが残っている状態で、結論を急ぐのはあまり賢くない。先日大量に付与されたスキルの効果が分かれば、何か現状を打破するきっかけなるかもしれない。


 現在俺の所持しているスキルは以下の通り。


 ・神託   …… 脳内アナウンスが理解できる

 ・鑑定   …… 人、敵性体のステータスが一部閲覧可能

 ・熱耐性  …… 熱への耐性? 今の所効果の実感なし。

 ・奇跡   …… 不明

 ・心眼   …… 敵性体の位置が分かる?

 ・天罰   …… 不明

 ・偽装   …… 不明

 ・再生   …… 不明

 ・共有   …… 不明

 ・分身   …… 不明

 ・無限収納 …… アイテムボックス或いはインベントリのようなもの?


 心眼から下はドラゴン(赤竜)を倒したことで得たスキルだが、殆どが良く分からない。

 まあ、わかりそうなものから検証していくほかないか。


 階段を下り一階層の通路へ。

 階層移動用のポータルに触れて二階層へ。


 取り敢えずフロアに入ってみると、水族館の時と同じようにぞわりという感覚と共に、敵性体の位置が理解できる。


 距離的には十メートル範囲くらいだろうか。これが恐らく心眼の効果だと思う。

 直ぐに通路に戻ると、一階とは違い通路に戻れる。


 やはり退出不可能なのはボス部屋の仕様なのだろう。

 だとすると二階層フロアのどこかにボス部屋に相当するものがあり、その先に三階層への階段なりがあるものと思われる。


 他に確認できそうな物と言えば……。

 丁度、と言っていいのかどうか、左手の人差し指にいい感じのささくれが立っていたので、ワザと痛くなるように引っ張ってみる。


 ぴりぴりとした痛みが立つ。

 さて、再生が自動回復系なら、時間が立てば治癒すると思うのだが。


 暫く見ていると、一分経った頃に一瞬で薄皮が剥がれた部分が元通りになる。

 大体想定通り。

 自動回復があるのは普段の生活でも便利だなと思いつつ、次のスキルについて検討する。


 分身。


 これは文字通りと思っていいのだろうか?

 取得順からすると恐らくはウルトラレアスキル。かなり法外な効果がありそうなものだが。


「えーっと、分身?」

 取り敢えず唱えてみる。


 その瞬間、目の前に自分がいた。


「「うわ」」

 そして、全く同じリアクションをする。

 なんだか気味が悪い。


「「なんだか……」」

 喋り出そうとして、また被る。さすが分身。というか、不気味なほど俺そのものだな。


「取り敢えず、本体の俺が喋るぞ。分身体は分身体だという自覚があるのか?」

「ああ、そちらが本体だというのは自認している」

「体の状態は? 弱体化しているとかその辺は?」


「ええと、ステータス。レベル、スキル、称号全てそのままだな。ただ、名前の所に(分身体)ってある」

「全く同じ状態の俺が増えるわけか。分身の解除はそっちの意思でできそうか?」


「えっと、解除……。無理だな。あくまでその辺は本体の指令なんじゃないか?」

「ふむ。後は、死んだときどうか、だな。距離や時間の制約があるかも気になるし」

「じゃあ、サクッと赤竜に特攻してくるか」

「さすが俺、話が早い」


 返事も聞かずにポータルを使っていなくなってしまう。

 三十秒ほどして、分身体が消滅したのが分かったと同時、分身体がこの場から移動して赤竜に特攻するまでの記憶が入ってくる。


「まじか。リアルタイムの情報共有は出来ないみたいだが、分身解除する時点までの記憶がフィードバックできるとか」

 これは、実質経験が二倍つめるという事ではないか。


 某有名忍者マンガの影分身と同じ仕様だな。

 まあ、こちらは分身数が一体だけの制約があるので、あそこまでチートではないが。


 それでも人間の時間は有限である。

 何せ、これが可能だということは、死亡を前提としない調査であれば分身と分担できるということだからだ。仕事で時間的拘束がある中、それを無視した立ち回りが出来るのは大きい。


「後は、分身を残して本体が死んだ場合とか、場合分けは無数にあるが、細かいところは今度確認しよう」

 大筋のスキル概要を把握するのが今日の目的だ。


 後よくわからないのは、奇跡、天罰、偽装、共有の四つ。

 奇跡については取得してから色々試したがどうにも効果がはっきりしない。恐らく自発的に発動するアクティブスキルではない気がするので、条件が揃えば確率で発動するとかそんなパッシブスキルだと思う。


 次は天罰だが、名前からすればカウンタータイプのパッシブスキルか、単純に攻撃系のアクティブスキルな気はする。


 ということで、再び二階フロアに入る。

 心眼で索敵をして、感知範囲内にいる敵は一体。


 正直前回は心眼が発動しなくて、瞬殺されたからよくわからなかった。

 ということは、二階フロアには心眼の感知射程外から即死の遠距離攻撃を放てる雑魚がいるということだろう。


 なんて物騒な。

 取り敢えず、今分かっている敵の方向に視線を向ける。

 二階フロアは密林といった感じなので、十メートルほど先にいると分かっていても、木々と丈の長い下草に隠れて良く分からない。


 視認は出来ないが、そこに存在しているというのは知覚出来ているので、天罰が攻撃系のアクティブスキルであれば、発動してくれないだろうか。

 ウルトラレアだし、それくらいは許容してくれると信じているぞ。


「天罰」

 口にすると、砲撃のような連続した爆発音が響き渡る。


 明らかに狙った方向以外からも聞こえてきたが……。

 十メートルほど先にごん太な雷が見えたので、あれが天罰の効果だろうか。

 まぁ、天罰が雷というのは連想しやすいが……。


『モンスター1,000体同時撃破を確認しました。特典としてレアスキルを進呈します。更なるご活躍をお祈りします』


 せ、せんたい? 1,000って、群体的な敵性体だった? いや、あちこちから轟音が発生していたから、フロア中の敵性体を同時にやったのか? あくまで特典の基準が1,000なだけで、実際はそれ以上だったということしか分からないが……。


「さすがウルトラレアスキル。ぱねぇ」

 雑魚敵なら一層できるか。狙い打ったのか、めちゃくちゃ広範囲なだけで流れ弾にたまたま当たった奴が1,000体以上だったのかは、まあ、フロアを歩いて敵性体と出くわすかどうかで判別が付くだろう。


 心眼で周囲に敵性体がいないことを確認し――感知範囲外から即死攻撃されることは分かっているので気休めだが――、ステータスのウィンドウを開く。


 名前  凍野 杏弥(いての きょうや)

 レベル 464

 ロール 預言者

 スキル 神託(Lv.2) 鑑定(Lv.1) 熱耐性(Lv.1) 奇跡(Lv.1) 心眼(Lv.1) 天罰(Lv.1) 偽装(Lv.1) 再生(Lv.1) 共有(Lv.1) 分身(Lv.1) 無限収納(Lv.1) 泳者(Lv.1)

 称号  不撓不屈 逸般人 竜殺し 殲滅者


 まず、レベルは上がってない。

 そんな気はしてたが、赤竜がボスで251だった。下の層といっても一層だけだし、雑魚敵のレベルは赤竜以下だろう。おそらくレベル差でボーナスが付く仕様だろうから、逆にレベル差があり過ぎるとほぼ経験値は入らないのだと思う。


 次にスキル。泳者って泳ぐものってことか? 水泳出来るようになるのがレアスキルなのだろうか? 練習すればできるようなものがレアスキル?


 首を傾げて何気なくウィンドウの泳者の部分をタッチすると、


 泳者 …… 水中行動が出来るようになる(窒息無効)。また、水中での移動がLv×10%早くなる。


 変な表示が出た。

 いや、変なというか、解説か。え、え?

 まさか、今までもそうだったの見落として、地道に検証してた? 馬鹿か俺。いや、けど前はそんなことなかったぞ。ステータスウィンドウを鑑定したり、触ってみたりくらいは既にやっている。


 ではなぜ? と思ってよくよくステータスを見てみると、いつの間にか神託のLvが2になっている。

 ……これか。


 神託 …… 脳内アナウンスが聞こえる。Lvに応じて情報量が増える。


 タップしてみると、考察通りの解説が。

 なるほど。スキルの数からして、特典情報を十回聞いたことでスキルLvが上がったということか。ということは、スキルの中身を一杯見れば、また神託のLvをあげられそうだな。


 それはこの後に取っておくとして、称号に殲滅者が追加されている。

 まあ、1000体も同時に撃破すればそんな称号も付くか。


 タップしてみるとそんな解説は出ない。神託Lvが上がれば見れるようになるのかもしれない。ともかく、一旦情報を整理しないとな。これまでこつこつと頑張ってきたお陰で、漸くダンジョン攻略へのとっかかりを得られそうな気がする。


 フロア探索を続行したい気分もあったが、新たに得られた情報を整理してからの方が効率が良いだろうという事で、その日の探索は切り上げることにしたのだった。




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