第10話 大盤振舞




 寝心地の良いお値段高めのマットレスと軽い羽毛布団のお陰で、無骨なダンジョンの中だというのに快眠である。

 しかし、夢見心地に機械的な音声が響いて目が覚めた。


『竜種のソロ討伐の達成を確認しました。特典としてレアスキルを進呈します。

Lv.1での竜種のソロ討伐の達成を確認しました。特典としてウルトラレアスキルを進呈します。レベル差五十以上でのジャイアントキリング達成を確認しました。スキルを進呈します。

レベル差百以上でのジャイアントキリング達成を確認しました。レアスキルを進呈します。

レベル差百五十以上でのジャイアントキリング達成を確認しました。スーパーレアスキルを進呈します。

レベル差二百以上でのジャイアントキリング達成を確認しました。ウルトラレアスキルを進呈します。

レベル差二百五十以上でのジャイアントキリング達成を確認しました。ユニークスキルを進呈します。更なるご活躍をお祈りします』


 いつもの脳内音声。ただし、いつもよりかなり長め。

 寝ぼけ眼に、そうか死んだかと思い至り、静かにガッツポーズをする。


 長かった。

 そりゃもう、この一か月、文字通り地獄のよう、というか地獄そのままだったが報われた。


 頬を涙が伝う。

 四十のおっさんの涙など誰も見たくはないだろうが、今だけは許してくれ。

 マジで、きつかったんだよー。


 時間を確認する。寝ていたのは三時間ほど。

 ボス部屋が落ち着いたかどうかはわからないが、一旦確認してみるか。


 むしろ、アナウンスが今入ったということは、あの酸欠状態の中で瀕死で生きていたということになる。さすがの生命力というべきか、俺の詰めの甘さというべきか。


 歩きなれた階段を下りながら、ステータスと呟いてウィンドウを出す。


 名前  凍野 杏弥(いての きょうや)

 レベル 464

 ロール 預言者

 スキル 神託(Lv.1) 鑑定(Lv.1) 熱耐性(Lv.1) 奇跡(Lv.1) 心眼(Lv.1) 天罰(Lv.1) 偽装(Lv.1) 再生(Lv.1) 共有(Lv.1) 分身(Lv.1) 無限収納(Lv.1)

 称号  不撓不屈 逸般人 竜殺し


「は?」

 思い切り階段を踏み外し、転げ落ちる。


 回る視界の中、ウィンドウだけはブレずに突き付けるように目の間に張り付いていた。


 転落が止まり、しかし、内容は変わらない。


「いやいや、レベル三桁あるのかーい、って話もだし、何? なんでこんな上がった? レベル差あると経験値が指数関数的に配分されるタイプの内部計算してる?」


 称号の竜殺しは想定内ではあるが、取得スキルもなんだかヤバそうなのが一杯増えてるし。

 特に最後の無限収納はやばいな。


「というか、やっぱりあるのか、収納系のスキル」

 無限が文字通り無限であれば、これだけで一生困らない飯の種にできる。

 いや、発覚したら危険すぎて始末されるか、いいように利用されるハメになりそうだな。


 なにせ手ぶらに見えて、何でも、何処にでも持ち込めるのだ。

 密輸、テロ行為、窃盗、色々な犯罪がやりたい放題である。


「はぁ。その点、偽装スキルに期待かなぁ。とはいえ、取得順から言えばただのスキルだし、過剰な期待は出来ないか」

 スキルの詳細が書いた取説が欲しい。切実に。


 起き上がって、あちこちぶつけたところをさすってみるが、別段ケガも無い。レベルが上がって体も頑丈になっているのだろうか? シャツを捲ってみても、ぷよぷよとしたいつも通りのお腹があるだけで、実感が湧かないが。


「筋力測定とかしなくちゃ、迂闊な真似できないな」

 筋力がゴリラ並みになってたら、力加減間違えて子供に怪我させるのも嫌だし。


 レベルが身体に与える影響は一体どれほどのものなのか、じっくりと検証しなければなるまい。

 とはいえ、ひと段落付いたのか若干気が抜けてるのを自覚する。


 少しばかり軽くなった体で階段を降り、空き缶だらけの通路を抜けてフロアに出る。

 どういう原理か、ガソリンの臭気も熱波も消え去っていた。忌々しい部屋の主も姿を消し、代わりに無機質な石造りの大部屋の中央に、巨大な宝箱が鎮座していた。


 でかい。

 180はある、俺の身長より高い。多分三メートルくらい。幅八メートル、奥行き五メートル程の小屋ほどもありそうな巨大な宝箱。


 どうやって開けたものかと首を捻るが、そう言えば便利なスキルを獲得していたと思い至る。


「無限収納」

 宝箱に触れながら呟くと、魔法のように目の前から小屋ほどもある巨大宝箱が消滅する。


 同時に、ウィンドウがポップして、無限収納内の目録が表示された。


・赤竜の翼皮

・赤竜の爪

・赤竜の瞳

・赤竜の血

・赤竜の心臓

・赤竜の鱗

・赤竜の逆鱗

・赤竜の牙

・赤竜の角

・赤竜の魔石

・赤竜の骨

・赤竜の尻尾

・赤竜の髭

・赤竜の肉

・宝箱(UR)


 赤竜の素材一式に宝箱そのもの。

 中身を取り出してから収納しなくても分類してくれるのは非常に便利でありがたい。


 これらの素材をどうしたものか。そのうち鍛冶とか生産職系統のスキル持ちが出てくれば、自然と販路が出来るかもしれない。まあ、当分塩漬けだな。


 試しに竜の瞳を取り出してみると、手のひらの上にバスケットボール大の眼球が現れる。

 キラキラして一見切れだが、目玉だと思うと不気味だな。


 収納内部での時間経過とか気になることもあるが、あまり時間を掛けてドラゴンがリポップしてもいやなので、先に進むとしよう。


 丁度部屋の反対側に通路があり、下り階段へと続いていた。

 九十九折れの階段をまた百段ほど下ったところで、同じような十メートル程の通路が延びている。


 違うのは、通路の真ん中に一メートルくらいの高さのモニュメントが立っていることだ。

 象牙のような質感の柱がにゅっと地面から反り立って、一番上にバレーボール大の透明な球体が鎮座している。


 手を触れてみると、ウィンドウが表示される。


 行先

 ⇒一階


 今の所表示はそれだけだが、一階の下に微妙なスペースがあるので、もしかしたら攻略後階層が増えるのかもしれない。ショートカットできるなら大分楽になる。特に、このクソ難易度ダンジョンを何度もクリアしたいとは思わない。


 取り敢えず二階層の様子だけでも探ってから戻るかと、通路の端から覗き込む。


「……」


 沈黙。空いた口が塞がらない。


 二階層は、木漏れ日の注ぐジャングルだった。





 ◇◇◇◆◆◆




 9/17。

 取り敢えず、ドラゴン倒せておめでとう、という事で高い肉を買って食べる。

 あの後、二階層を少しばかり探索した後、謎の敵にぶち殺されて早々にリスポーンするハメになった。


 一階層のドラゴンの様にいきなりボス部屋というわけでもなさそうだったので、雑魚敵の確認くらいできればと思っていたのだが、レベル400台が即死する雑魚ってなんだよ。まじクソゲー。


 一応、死ぬ寸前に気配は感じたので――多分心眼のスキルの効果――、次からは即死しないように頑張りたいが……。


 はぁ、相変わらず途方もない話だ。


 リスポーン後、一階層のボス部屋には当然のようにドラゴンがリポップしており、その代わり一階層の通路にもショートカット用のオブジェが出来ていたので、攻略の度にドラゴンをぶち殺す手間を掛ける必要はなくなった。


 二階層に行けることは確認した後、少し思うところがあって一階層のボス部屋に入り、ドラゴンに鑑定を使う。これまではレベル差なのか上手く通らなかったのだが、レベルが飛躍的に上昇したお陰で見れるようになっていた。


 名前  赤竜

 レベル 251

 種族  上位竜種

 スキル 竜の咆哮(Lv.9) 赤竜の吐息(Lv.9)

 称号  火を統べる者


 ブレスはスキル扱いらしい。Lv.9でカンストかな?

 称号もなんか厳ついし。

 レベルは今の俺より低い。やはりレベル差がある敵を倒すと経験値が一杯はいるシステムくさい。


 どのくらい差があればどうなるかという内部計算式的なものは、きっとそのうち誰かが考察するだろう。モノ好きはいるものだ。


 その後無事ブレスで消し炭にされてリスポーン。

 レベルが倍近くなっても、裸同然では凌ぎきれないらしい。ブレスのスキルLvがカンストしてるくさいのも多分理由だろう。ダンジョンが広まって一か月経つが、未だにスキルLvを上げた報告は無いので、多分かなり上がりにくいと思われる。自衛隊は以前から潜ってるせいか上がっていたが、それなりにこなす必要があるという事だろう。そして、その分恩恵もあるのではないだろうか。

 その後、朝まで睡眠を取って、残りは全休とした次第である。

 日曜日だから家の掃除もしなきゃだしね。


「しかし、どうするかねぇ。目先の目標だったドラゴンは討伐出来たけど、その先は結構途方もないし」

 所謂フィールドダンジョンと言われる、屋外と同じような階層みたいなので、多分結構広いだろう。あの中でフロアボスを探して、次の階層への回廊を探るのは中々骨だ。


 しかも、レベル四百台になったのに、初見殺しで即死させて来る雑魚敵がいるフロアだ。


「レベルが上がって、これなら何とかなるかもしれないって思った矢先に盛大に冷や水ぶっかけられた気分だよ」

「調子のんなって?」

「そう、そんな感じ。舐めてんじゃねーよって」


 他のダンジョンは知らないが、このダンジョンの製作に携わった奴は絶対に性格が悪い。

 会ったことはないが、それだけは保証出来る。


「まあ、杏弥は頑張ったんだし、後は自衛隊に任せてもいいんじゃないの?」

「任せるって選択肢は、無いかなー」

 レベル爆上げしたことは兎も角、無限収納だけでも厄種だ。


 最終的にどこかでばれるかも知れないが、その際に有利な交渉材料は確保しておきたいし。


「だからまぁ、スキル検証しながら頑張るしかないんだけどさー」

「ほら、良い肉食って、元気出して」


 100グラム3,000円の国産和牛。

 

「うみゃい」

 高い肉って、なんでこう脂が美味いんだろうなー。


 そんなどうでもいい事に現実逃避をして、暫し無聊を慰めるのだった。




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