第23話 浮気

 私が逮捕されて、4人の飲み会もなくなった。逮捕されなくても、健斗との関係が壊れ、早々に飲み会はなくなっていたんだと思うし、健斗は、私の報道とかみて、このままだったら殺されていたかもって震え上がっているかもしれないわね。


 でも、健斗が、ずっと平穏な時間を過ごせるのは許せない。だから、健斗にもそれなりの報いは受けてもらわないとね。ということで、捕まる前だったけど、健斗の奥様とはお会いしておいたの。


「あなた、メッセージが来たんだけど、どういうこと。」

「なんのこと?」

「とぼけないでよ。あなたが浮気しているって書いてある。」

「多分、何かの嫌がらせだよ。俺は、そんなに恨まれる人じゃないんだけどね。だから、愉快犯とか?」

「私、このメッセージを出した女性と先日、会ってきたの。」

「その女性って、本当に俺と付き合っていたの?」

「あなたのことをよく知っていたわ。そして、あなたからは結婚していることを聞いていなくて、騙されたと泣いていたわよ。相応の報いを受けてもらうからね。」

「騙されているんだって。」

「メタバースのあなたの部屋から、彼女のいうとおり指輪も見つかった。こんな指輪、あなた持っていなかったわよね。男性が指輪なんて自分で買うはずないし、これが証拠でしょ。」

「バレたら、仕方がないね。でも、これが最初で最後だから許してよ。」

「許せるわけないでしょ。私が、どれだけ、子供とか家庭に拘束されてきたか。あなたみたいな人のためだったと思ったら、もう、全てが嫌になっちゃった。もう、あなたとは別れる。慰謝料も養育費も、たっぷり払ってもらうから。」


 あいつ、とんでもないことしてくれた。俺の人生、めちゃくちゃじゃないか。男性なんて、浮気ぐらいするだろう。許してくれよ。お前だって、楽しんでたろ。寂しいって、迫ってきたのはお前じゃないか。


 まあ、殺人もするぐらいの女だからな。でも、俺にまで、そんなことしなくても。なんで、あんな女に引っかかっちゃったんだ。


 これから、どうやって暮らしていこうか? 子供は、そんなに可愛いと思ったことないし、この女も、嫌気がさしていたんだよ。だから、別れるのは、こっちから願っていたことだが、お金をむしられるのは困った。


 大体、お前は、いつも文句ばかりで、話しも聞いてくれないって怒ってばかり。でも、俺も、頑張ってるし、忙しいんだよ。外では、仲良いふりをしていても、家の中では、いつも不満そうで、仏頂面。お前といても、楽しいことがない。


 どうして、女って結婚したら、こんなに変わっちゃうんだ。結婚する前は、いつも、俺の前では笑顔で、俺と一緒にいられるだけで幸せって言ってたじゃないか。


 子供だって、お前が欲しいって言うから、授けてあげたんだよ。別に、俺は子供が欲しかったわけじゃないし。


 確かに、子育てで苦労していたのは気づいていた。でも、お前が欲しいと言ったからだろう。お前のせいじゃないか。お前の願いを叶えてあげたのに、俺が苦労するって、おかしいだろう。


 そもそも、家事が好きじゃないって、料理のメニュー考えるのが苦痛だって、女なんだから、家事ぐらいやれよ。料理も作るだろう。何を甘えてるんだよ。俺が仕事したくないって言ったら怒るだろう。それと同じじゃないか。


 だから、少しぐらい他の女性で気を紛らわしたって、いいじゃないか。別に、家族をちゃんと養っているんだから、1人や2人の女がいても、何も変わらないだろう。どうせ、浮気しなくても、お前と話す時間なんて、最近はないんだからさ。


 ただ、妻の意思は固く、一切の俺の意見を聞く気はなく、離婚となった。そして、家はもちろん、俺の口座にあるお金とかは全て妻の名義に変えさせられた。


 でも、大丈夫。俺は、これからも働けば、生活できるぐらいのお金は入ってくるし。でも、そんなに簡単ではなかった。


 妻は、俺が働く塾に、浮気してるから離婚したと伝えた。子供をお客さんにする商売だから、塾は怒ったし、それよりも、子供の親たちの間で話題になり、そんな先生がいる塾は辞めたいと大問題になったんだ。


 塾から、そんな人を雇い続けられないと連絡があり、俺は、クビになった。そして、現実世界でもメタバースでも、教育関係では、ブラックリストに載って、誰も雇ってくれなくなってしまった。


 だから、お金を使うだけのメタバースに行く気も起きず、現実世界では、工事現場で日雇い人夫をする生活になってしまった。今は、住む場所もないので、新宿のホームレスとして過ごしている。


 一方、妻は、夫から解放され楽な気持ちになりつつも、これまでの不満は爆発していた。やりたいことは何もできずに抑圧されてきたのに、あの人だけ、好き勝手に生きていたなんて許せない。ホームレスだって、それなら、寒さとか暑さで、死んでしまえばいいのに。


 あの人はわかっていない。あの人は、塾に行けば、家庭のことからは解放される。でも、私は、起きてから寝るまで子育てから解放されることはない。寝ていても、熱が出たり、おねしょとかで起こされて、ゆっくり寝れたことなんて記憶にないぐらい。


 そんなこと知らないでしょ。と言うより、知ろうとしてないものね。私も、家事は女がやるものっていう封建的な男性が素敵と思って結婚したことは認める。でも、今から考えると、家事や子育ては二人で分担してやろうって言ってくれる人が良かった。


 そんなこともわからないぐらい若い時に結婚したってことが問題だったのよ。だから、私の若い頃の時間は全て家庭に捧げてきた。


 大学の頃の女友達は、結婚していないと、働いて得たお金で着飾ったり、旅行に行ったり、美味しいもの食べたり、SNSで楽しそうな投稿をいっぱいしていたの。私は、みると暗くなるから、見ないようにしていたけど、それでも目に入ってくるものね。


 私も、35歳ぐらいまで自由に遊んで、結婚はそれからでも良かったと思う。どうして、あんなに早く結婚しちゃったんだろう。そして、こんなに私のことなんて全く見ない人なんかと。


 子供を産みたかったというのはある。今でも、娘の梨沙は私の宝物。お父さんと別れてしまって、ごめんなさい。でも、これからも、大切に育てていくから。


 35歳で結婚してたら、子供が産まれても、梨沙じゃなくなっているかもね。その意味では、過去に戻ってやり直したいなんて言わない。でも、一人でずるして遊んでいた人は許せない。


 私が殺人者とかになったら、割に合わないから、そんなことしないけど、これからも、生きていけないぐらい、追い詰めていくから。


 新宿のホームレスだって。女子高生にでもお金あげて、痴漢されたって言ってもらおうかしら。でも、それじゃあ、今より待遇がいい刑務所で過ごすことになっちゃうわね。


 じゃあ、横のホームレスに、自分のものを盗まれたって言わせるのもいいわね。そしたら、新宿から追い出されるもの。ホームレスにも、縄張りとかあるんでしょ。苦しみなさい。

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