第3話 不良グループ

 洋一は中学校に上がった。小学校とは同じ校庭で、奥の山肌を削って、中学校の校舎が建てられていた。

「隆。中学校はな、一時間ごとに先生が変わるんや。英語やって習うんやで」

 洋一は得意になっていた。隆にはどういうことか分からなかったが、来年は洋一と同じ世界が待っていると思うと、楽しくなった。


 洋一は隆を連れて、時々駄菓子屋に行くようになった。必ず隆の分も買ってくれた。これまで欲しくても食べられなかったものなので、隆は喜んで付いて行った。


「隆君。ちょっと、ええかな」

 同級生の和子に、放課後の運動場で呼び止められた。

「あんな、お母さんのお金がなくなっとるんよ。洋ちゃん、買い食いしとらん?」

 洋一が校舎から出てきた。和子は足早に隆から離れた。


「行こうか」

 洋一の誘いだった。

「今日はボク、早う帰らんといかん」

 隆は全力で駆けた。


 洋一はもう隆に声をかけなくなった。駄菓子屋にはめったに客がいなかったが、たまに人影があると、それは洋一だった。


 隆が学校の帰り、どこで待っていたのか、洋一が前に立った。山道には2人のほかに誰もいなかった。

「どうや」

 洋一は左腕をまくった。腕時計が光っていた。

「洋ちゃん。どうしたん?」

 隆が訊くと、洋一はフンと、鼻で笑った。

「タンポやって。タンポ。高校生に金貸したんや。そしたら、これ置いて行ったんや」

 高校に進んだ先輩が時々、友達を2人連れてきて遊んでいた。3人とも、険しい目付きをしていた。子供たちは彼らを避けた。


 洋一が元気をなくした。登校の途中で家に寄っても、下を向いて出てきた。

「なんぞ、あったん?」

 2人だけになった時、隆は訊いた。

「あの時計な、ワシが傷つけたから、弁償しろって。ええ時計やったらしい。何万も、ワシ、金持ってへん」


 グループは橋の上で待っていた。

「金、できたか?」

 洋一は目を伏せた。

「お前ら、ちょっとこい」

 洋一と隆は消防小屋の横に、連れて行かれた。

 ドスッという鈍い音がして、洋一がうずくまった。駆け寄ろうとした隆の腹に、拳が突き刺さった。息が詰まった。これまで受けたことのない衝撃だった。


「ゼニはお前ら2人でなんとかしろ。分かったな」

 有無を言わせなかった。2人は胸倉をつかまれ、体を起こされた。また、殴られる、と隆が覚悟した時だった。

「こら! そこで、何しとんや」

 バイクが通りかかった。

「おっちゃん!」

 勲叔父さんだった。


 叔父さんはバイクを停め、近づいてきた。

「ええから、2人は早う帰っときな」

 洋一と隆が後を振り返ると、高校生の一人が腰を落とし、叔父さんに対して構えていた。拳が突き出されるのと同時に叔父さんの体が反転、高校生は半円を描きながら前のめりに倒れた。叔父さんは高校生の掌を上に向け、手首を曲げた。

 高校生の動きが止まった。叔父さんは立ち上がり、高校生を起こした。高校生たちは叔父さんにペコペコと頭を下げていた。


 洋一の家の庭に、バイクが停まった。

「ほら。取り返してやった」

 叔父さんがくしゃくしゃになった6千円を洋一に投げてよこした。

「そんな大金、誰にもろうたんや」

 洋一は唇を噛んだ。

「アホが! 母親に戻しとけ」


 バイクのエンジン音が小さくなっていった。洋一はうつむき、涙をボロボロこぼしていた。隆は殴られた腹が痛んだ。

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