第2話 雪遊び

 木枯らしが吹くと、遠くの山が冠雪する日が増える。子供たちは手に白い息を吐きかけながら、山道を登下校する。

 村に初雪が舞った。勲叔父さんが焚火をしていると、子供たちが火を取り囲んだ。

「そうや、スキー作るか」

 叔父さんは竹藪に子供たちを連れて行った。スキー用の竹を調達してもらい、子供たちは肩に担いで戻ってきた。


 叔父さんは竹を割って、節を削り、先を丸く切ってくれた。叔父さんがしばらく火に炙り、庭石の隙間に差し込んで力を加えると、竹の先は簡単に曲がった。

 このコツを最初に覚えたのは洋一だった。洋一は和子のスキーも作ってやった。修司は父親のをもらった。隆は叔父さんに手伝ってもらい、ようやく完成させた。


 待ちに待った雪が積もった。

 子供たちはスキーを担ぎ、村の往還に出てきた。坂道はしばらく滑ると加速が付き、よく転んだ。しかし、子供たちはすぐに上達した。子供たちの声が村中に響き渡った。

 夕食前に隆の父親が鍬を持って、勝手口から入ってきた。

「隆。権蔵さん家の下、掘ってこい。お前ら、遊んだんやろ」

 子供たちが滑り、ツルツルになった雪道で権蔵爺さんが転んだ、という。

「もう、うちの下では遊ばせん」

 と、怒っているらしい。


 雪明りが権蔵爺さんを浮かび上がらせていた。坂道の上で何やら大声を張り上げている。洋一も修司もきていた。3人は固く凍った雪道を掘った。

「ええか。黒土が見えるまで掘るんやで」

 寒いのか、権蔵爺さんはしきりに足踏みしていた。3人は黙々と掘った。体が温まり、心地よい疲労感に包まれた。


 年が明けた。村はまた雪に覆われた。

 隆が権蔵爺さん家の下を通りかかると、見知らぬ子どもが3人遊んでいた。

 真新しい長靴がまぶしかった。色鮮やかな毛糸の帽子と手袋を身に着けている。1台のソリで順に坂道を滑っていた。


 隆は帰って母親に話した。

「権蔵さんの孫や。冬休みやから、遊びにきとるんや」

 権蔵爺さんに孫がいることを、初めて知った。

(都会の子が鍬で道の雪が掘れるのやろか)

 あの子供たちが権蔵爺さんに怒られないか、気がかりだった。


 隆が洋一とメンコをしていると、権蔵爺さんの孫たちが遠くから見ていた。

 一番上の子が手にメンコを持っている。権蔵爺さんの家にばかりいて退屈したのだろう。

「やる?」

 洋一が訊くと、3人はうれしそうに加わった。


 洋一と隆はメンコに飽きてきたので、ダラダラと打っていたところだった。新しいメンバーが増え、2人は本気を出した。

 権蔵爺さんの孫は負け続けた。洋一は可哀そうになり、メンコの半分ほどを返してやった。それでも不服そうな表情だった。


 夕方、権蔵爺さんは洋一の家にやってきた。

「うちの孫のメンコを返せ。お前ら、グルになってメンコ、巻き上げたやろ」

 洋一は残りの半分を返した。

 母親が勤めから帰った。和子が何か話しかけようとするのを、洋一は目で制した。

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