村の少年探偵・隆 ~だまし絵~

山谷麻也

第1話 ヒーロー

 洋一は小学校5年の冬、父親を亡くした。林業に従事していた。山の木を伐り出しに行っていて、事故死した。

 1960年代前半、地方ではまだ土葬の慣習が残っていた。庭に村の衆が集まり、埋葬の準備をしていた。洋一は妹の和子と庭の隅で、ぼんやりたたずんでいた。

 洋一の母・富江は間もなく勤めに出た。村を降りて行ったところにある農協の事務だった。

 隆は洋一より1級下だった。父を亡くした洋一に、どう声をかけてよいか分からなかった。しかし、洋一は元気を取り戻し、以前のように山や川で一緒に遊ぶようになった。


 洋一は釣りにしても狩りにしても、並外れたセンスを持っていた。

 ヤスを手にいつまでも潜っている。水しぶきと共に洋一の体は浮き上がり、ウナギやウグイを仕留めていた。

 獣道にワナを仕掛ける時でも、洋一の指示に従えば、たいてい山鳥やウサギなどが掛かっていた。


 学校の帰りにはよく道草をした。

 川に降りて水切りをし、岸のイタドリを食べた。桑の実、ヤマモモ、あけび、山栗や豆柿など、雪に閉ざされる冬を除いて、身近なところに子供たちの食糧があった。


 洋一が6年生の初夏、村の権蔵ごんぞう爺さんが家に怒鳴り込んできた。権蔵爺さん家のビワが盗難に遭ったらしい。

 隆はこの話を、隆の母親から聞いた。

「なんぞ、知らんか?」

 母親は隆をのぞき込んだ。隆は顔を横に振った。

「えらい、怒っとるんやって。『見つけたら、ただじゃおかん』って」


 権蔵爺さんは、年老いた奥さんと2人暮らしだった。息子に嫁を取り、しばらく同居していたが、嫁と折り合いがつかず、息子夫婦は出稼ぎに出た。

 権蔵夫婦はよく村の衆とも、いざこざを起こした。渓から水を引いていたが、水がこなくなると、いつも誰かのせいにした。

「ワシらを干しにかかっとるもんがおる」

 などと言いながら、水源地を見回っていた。たいてい木の葉がつまっていたが、村の衆は見て見ぬふりをしていた。


 沢ガニが小石を動かして、水源の流れが変わったことがあった。権蔵爺さん家の水道が涸れた。村の衆の関心は、夫婦がどこに怒りをぶつけるかに向けられた。しかし、この時ばかりは夫婦は平静を装っていた。


 権蔵爺さんが洋一の家から引き揚げた数日後、洋一の同級生で従弟いとこの修司が足にケガをした。

 父親のいさお叔父さんがバイクで、学校の近くの医者に連れて行った。松葉杖を1か月ほどつき、それ以来、右足を引きずるようになった。

 村の衆は「筋でも切ったんと違うか」と話していた。修司はどこでケガしたのか、一言も語らなかった。

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