第7話 実戦テスト
ルールはプロ仕様の七人編成ではなく、五人編成の学生ルールが
そこで俺たちはお互いのレポートに目を通して、それぞれの能力を確認し合った。勇者バトルはフォーメーションバトルとも呼ばれるチームプレイだ。
誰がどのポジションに入るか?
誰をマークするのか?
誰を支援するのか?
戦術が重要になる。
まず、俺たちの最大火力はナーガの高位魔法だ。先輩たちに対抗するにはそれしかない。裏を返せば、ナーガがやられた時点で俺たちに勝ち目はない。とすれば、ナーガを後衛に配置して、他の四人でナーガを死守する。戦術の
一方、先輩たちのフォーメーションを装備品から推測するにアタッカーはイラフさんと、ダガーを帯刀した先輩だと予測できる。おそらく敏捷性に秀でたアサシンかシーフといったところだろう。他三人は魔杖を所持している。回復術士か魔術士。後方からの支援が考えられる。
そこで一つのアイデアが浮かんだ。回復術士ジョジマの修得魔法に
先輩たちからの攻撃はアタッカー二人の物理攻撃のみ。こちらにはタンクのキヌガーがいる。
キヌガー、ホッシ、俺。三人ならば数的にも有利な状況が作れる。先輩たちを相手にとってもナーガの魔法発動まで時間を稼ぐだけなら俺たちにもできるはず……。
俺がそこまで言うと、レポートを食い入るように見つめていたホッシが顔を上げた。
「ナーガ君、レポートを拝見させてもらったところ聞いたことがない高位魔法ばかりなんだけど、発動時間はどれくらいかかるのかな?」
ホッシの問いにナーガが一瞬、気まずそうな表情を見せた。発動時間。作戦の肝となる重要事項だ。高位魔法になればなる程、詠唱時間は長くなる。ある程度は覚悟していた。──が、
「じゅ、じゅ、じゅ、……10分だ……」
はっ!?
はぁあああっっーーーー!?
待て待て待て待て!!
10分って!
どんなに高度な魔法でも詠唱時間は5分程度。
お前、星ごと消滅させるつもりか!?
そんな高位魔法、誰も求めてませんからっ!
対人専用のかる〜いヤツでいいんですけどっ!
魔法は威力も大事だが勇者バトルに於いては、発動時間が最も重要だ。フォーメーションバトルは敵味方が入り乱れる乱戦。悠長に詠唱している暇はない。それに勇者バトルの制限時間は15分だ。三分の二の時間を詠唱に費やすなんて、今だかつて聞いたことがない。
俺たちは困惑した視線を交錯しながらナーガの返答を待った。
「……ない。悪いが戦闘に向いた簡易魔法には興味がなくてな……」
げっ!?
なにカッコつけてんだっ!
普通、高位魔法が使えるなら簡易魔法なんてちょちょいのちょいだろ!
「……期待に応えられなくて、すまん」
はぁっ!?
こいつ何言ってんだ??
対人用の簡易魔法、一つも修得してないのか??
「俺は兵士育成学校でも魔法研究科の所属でな……。新しい魔法の開発や、高度な魔法技術の研究に時間を費やしてきたんだ……」
お、思い出した──
ナーガが勇者バトルでの実績がないことを──
こいつは実戦向きじゃない。
勇者じゃなくて、──研究者だ!!
つ、つ、使えねぇーーーーーーっっ!!
マジか……。いくらなんでも10分もの間、先輩たちの攻撃を防ぎきるのは不可能だ。予想だにしなかった天才魔術士の正体に暗雲が立ち込める。
俺が眉間にシワを寄せていると、パーティーのレポートを交互に見比べていたホッシが何かを思いついたように口を開いた。
「ところでジョジマ君、
「そうだな、
「よし! それならイケるかもしれない!」
ホッシの手招きに俺たちは身を寄せる。ひそひそとした小声で提案が打ち明けられた。
──なるほど。面白いアイデアだ。
ホッシの作戦から導き出した俺たちの戦術はこうだった。フォーメーションは1-3-1システム。回復術士ジョジマをワントップとして前衛に置く異例のフォーメーションだ。中衛には俺とキヌガーとホッシ。そして後衛にナーガを配置する。
バトル開始すぐに、ナーガには魔法詠唱に入って貰い、ジョジマにも
先輩たちは当然、前線を押し上げてくるだろう。そこで、ジョジマは後退しながら、
後衛の魔術士たちを防壁の内側に入れなければ、アタッカー二人の物理攻撃に焦点を絞ることができる。もし後衛が飛び込んでこようものなら、俺の出番だ。敏捷性を活かしたマークで牽制すれば、不用意には近づけないだろう。俺とジョジマで後衛三人を防壁の外に張り付ける。
あとはキヌガーとホッシでアタッカー二人の攻撃からナーガを守り抜けば、──俺たちの勝ちだ。
詠唱時間10分。いずれにせよ俺たちの最大火力はナーガの高位魔法のみ。10分間、耐え凌ぐしか勝算はないのだ。──やってやろうじゃないの。
勇者バトル。
フォーメーションバトルは個人戦じゃない。
チーム戦だ。
見せてみろよ。ナーガ。
ドラフト一位としての、天才魔術士としての非凡な才能を──そのために俺たちは、全力でお前を守る。
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