第4話 寮生活
『
中央にあるのが事務所やトレーニングルーム、食堂などを備えた通称、センター。
その後方にあるのが女子寮で、左側にあるのが二軍寮。そして右側にあるのが三軍寮だった。
プロ勇者の世界はスタメン7名、サブ7名。合計14名の勇者が一軍登録される。二軍も同じで14名。一軍勇者は一人暮らしだが、それ以下は寮生活を強いられる。
三軍は育成をメインとした若手勇者が30名程在籍して寮生活を送る。二軍寮が一人部屋なのに対して、三軍寮は相部屋だ。
『
文字通り、雛鳥の「巣立ち」には昇格と社会復帰、二つの意味合いが込められていた。
俺はドラフト一位指名のナーガと相部屋になった。
荷物の整理をしているとナーガが「めんどくせぇー」と独りごとを言いながら荷物を片付けている。「めんどくせぇー」がこいつの口癖のようだ。
光沢のない長髪を掻き上げ、気怠るそうに動くナーガに視線をやると、細身の長剣を取り出し手入れを始めていた。
漆黒の長剣??
魔術士だとばかり思っていたが、ナーガは魔法剣士なのか? そうか、それで納得がいく。同期の五人はタンクのキヌガーを除いて魔術士だ。随分とバランスの悪いドラフト指名だと思っていたが、ナーガは魔法剣士のアタッカーなのだ。
「……高そうな長剣だな」
俺は大魔導士の末裔だと言われる「おぼっちゃま」のナーガに皮肉を込めて言った。
ふんっと鼻を鳴らしてナーガが呟く。
「魔剣ラグナロク。先祖代々から我が家に伝わる宝刀だ」
な、なにっ!?
魔剣ラグナロクだってぇぇーーーー!!
俺はその響きに腰を抜かした。
魔剣ラグナロクといえば、国宝級の特級魔導具。
そ、それが今、目の前に!?
「触ってみるか?」
俺の胸中を察したナーガがラグナロクを差し出した。
うんうんと頭を何度も振って俺は目を輝かせる。
ほ、本当にいいのかっ!?
伝説の魔剣。同じ空気を吸うだけでも贅沢極まりないのに、触ってもいいだなんて……。こいつ意外といい奴じゃないか! 俺は目の前に差し出された漆黒の刀身をマジマジと眺めながら生唾を飲んだ。
「遠慮はいらん。同期のよしみだ。ほらっ」
ためらう俺にナーガが催促するようにラグナロクを押し付ける。
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
汗ばんだ手のひらを着衣で拭い、ラグナロクの
ズシリ。
ぎょ、ぎょええぇぇぇーーーー!!
重力にぶっ叩かれたような重みがのしかかる。
腕がもげる程の衝撃。
瞬時に両手で柄を握るも微動だにしない。
ぬぐぐぐぐっっ!!
歯を食いしばり引っ張り上げるように力を込めるも、剣先は床についたまま。
一体、どうなってんだ??
長剣ではあるが身幅の狭い細身の剣だ。どこにそんな重量が……。
「ふぁっはっはっはっはあーーーー!!」
俺がラグナロクに悪戦苦闘していると、突如としてナーガが高笑いをみせた。
「ラグナロクはな、魔力値の低い者には扱えない魔法剣。お前の魔力値はいくつだ?」
その問いに力が抜ける。付与魔術士を名乗る俺だったが、元は剣士。魔力値は500程度しかない。この数値は学生勇者の平均的なもので、プロ勇者の魔術士ともなれば最低でも1000は必要だと言われている。
「2000の魔力がないとラグナロクは扱えないぜ! ふぁっはっはっ!」
ナーガが得意げにラグナロクを奪い取って、軽々と
2000の魔力だって!?
ということは、こいつの魔力は2000以上!?
すでにプロ勇者の倍の魔力を保有しているっていうのか?
「ふぁっはっはっ! 残念だったな、駆け出しの付与魔術士よ! これが俺とお前との差だ!!」
げっ!? その言葉に唖然とする。
こいつはそれを見せつけるためにラグナロクを渡したというのか? とんだ性悪じゃないかっ!!
「悪いことは言わねぇー、お前にゃプロ勇者は無理だ。早いとこ諦めて故郷に帰ることだな」
ラグナロクの剣先が俺に向けられていた。
返す言葉が見つからなかった。
悔しいがナーガの言う通りだ。
俺が本格的に魔術を勉強したのは兵士育成学校に入ってからの話で、あまりに修練の期間が浅い。
ラグナロクの剣先の向こうで、憐れむようなナーガの視線が俺の胸を貫いていた。
ガチャリ。
「準備はできたか? そろそろ行くぞ!」
ノックもなく部屋の扉が開けられ、キヌガーとホッシが顔を出した。
「わっ! わわわわっわ!!」
俺たち二人の姿を見てホッシが室内に転がり込んでくる。
「ちょ、ちょっと何やってんだよ!? ナーガ君、危ないじゃないかっ? 部屋で剣を抜くなんて……」
小さな体をジタバタと動かして懸命に仲裁に入る。
「ちょっとこいつに指導をしてやってただけだ」
ナーガはそう言ってラグナロクを鞘に収めた。
「まあ、何があったかは知らんが、そろそろ懇親会の時間だ! 二人とも早く準備しろ!」
キヌガーに
そうだった。この後、食堂で三軍の懇親会が予定されていたのだった。初日から遅刻していては印象が悪い。
俺は釈然としないモヤモヤとした気持ちを押さえて、彼らの後について行った。
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