魔法

この世界には魔法がある。

というか、というのが正確かもしれない。

生物・非生物問わず、すべてのモノは魔力を持っていて、

ただそこに生まれ、存在するだけで一定の魔力を内包している。


この世界の魔法は学問では無い。

魔法とは、全てのモノが持っている魔力を、自分の知覚出来る範囲で動かしたり、

自分が使いやすいカタチ、望むカタチに改変する技術やコツの総称であって、

呪文の詠唱や紋章・魔法陣で曖昧なイメージを明確な形に規定し、

規模を定めて結実させるための儀礼プロトコルである。

魔法を使うために必要とされる杖や触媒その他は、

魔力の消費を抑えたり、不足を補填する為の補助的な役割しか持っていない。


だから、魔法使いはとても少ない。

呪文の詠唱や紋章・魔法陣は暗号化されていて、

その暗号化された式を使用可能にする、暗号鍵たる刻印は当然、秘中の秘。

各家の中でだけ継承されていて、

上辺だけ詠唱や儀礼を真似ても、当然何一つ意味をなさない。

構築の時点で二重三重に資格や条件が求められ、

実際の行使に至っては全員もれなく命懸けだ。

なにせ魔法の行使に失敗すればんだから。


適切な詠唱で補強したイメージをもとに、紋章や法陣で規模・範囲を指定し、

触媒含め過不足なく調整したコストを消費して、求める現象を引き起こす。


コストとは、己の魔力いのちだ。


例えば炎の魔法。

適切に構築して、コストを用意し、

炎をか、

既にある炎にする。

生み出した炎は自分の命が世界で炎に成ったものだから、

血や肉の様に

干渉するのも、様なものだ。


だから魔法は学問になっていないし、なれなかった。

本などいくら読んでも、

この世界の魔法は、

魂で覚え、血に交ぜ、肉と骨に刻む。


俺から言わせると、この世界の魔法は──

とても危うく、おそろしいモノだった。

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