第32話「三周目〜朝のひととき〜」
「あの、大丈夫?」
オレは急に声を掛けられ、我に返った。
「ああ、平気。ちょっと目にゴミが入っただけだから」
「そう……」
如月はそう答えると、教室の窓開けを再開した。
「何してるんだ?」
「教室の換気」
なるほど。朝早く来た奴はこんなことしてるのか。手伝うよと、如月に習って窓を開ける。それにしても、如月がこんなに早く登校してるなんて知らなかった。
「いつもこんなに早いのか?」
自然と質問が出てしまって、オレはハッとした。まずい。一回目はこんなことなかったし。
「委員会の仕事で。ついでに窓開けに来ただけ」
如月は、自分の鞄を持ち直すと「じゃあ」と静かに教室を出ていった。
オレはその如月の態度に、違和感を感じた。一回目、告白した時のオドオドしたか弱い感じとも、夏祭りの日、自分を罵ってきたどちらの如月とも、違う印象を受けたからだ。
本来の彼女はそのどちらでもなく、とてもクールで、穏やかな人だったのかもしれないと思った。
***
(……まずい)
続々とクラスメイトが登校してくる中、オレは祈る様に自分の席で待っていた。
一回目の再現をするつもりだったのに、もう朝から違うことをしてしまった。気持ちが焦りすぎて、早めに登校してしまったことだ。再現するなら、いつも通り遅刻ギリギリに来るべきだった。
お陰で、如月と会話することになってしまった。このほんの少しのズレが、今後どう作用してくるのか、オレは怖くなった。
一日学校を休んだだけで、如月は消えたのだ。これからは慎重にいかないと……オレは一回目の自分の言動を、記憶からすべて探り出そうとした。
ただ今日こんなに早くこなければ、朝の少し物悲しい爽やかな教室の空気や、本来の如月を知ることはできなかった。
それにもう二度と、あんな穏やかな如月と話すことはできないのだ。知れて良かった。
そんな時、背中を叩かれて「よ、おはよう! 今日の告白忘れんなよ」と声を掛けられた。将暉だ。もうその挑発すら頼もしい。
オレは如月が委員会活動を終え、無事教室に戻ってくることを祈った。
***
(ヤバイ……凄い緊張する)
その日の放課後。遂に決行の時――
体育館裏に如月がやって来た。
生まれて初めてでもない、感情も伴っていない告白なのに、別のベクトルで緊張が迫り上がってくる。今まで生きてきて、こんなに緊張したことはない。オレはスウッと深呼吸した。
「……突然、ごめん。オレ、ずっと、如月のことが……」
絶対に失敗できない――今度は上手くやる。
つづく
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