第33話「三周目〜二度目の告白〜」

 如月は唖然とオレを見ていた。まさにそれは、豆鉄砲を喰らったような顔だった。


 一回目の時はそう思っていた。だが、如月は既に自分たちの悪巧みのことを、知っていたはずなのに――大体、体育館裏に呼び出されるベタなシチュエーション。「告白される」と想像できそうなものなのに、何であえてその誘いに乗って来たのか。


「……え?」

「いや、だから、その……オレ、如月のことが好きなんだ」


 本当に驚いているように見える――


 だが次の瞬間、如月の目の色が変わったように感じた。如月は俯いて、モジモジしながら呟いた。


「……や、八神君と殆ど話したこと、ないよね? わ、私なんかの、どこが好きなの?」


 殆ど? 一回目は「話したことがない」ときっぱり言われた気がする。確かに、今まで如月と話したこともなかった。ヤバイ……会話の内容が変わった? もしかして、今朝、教室で会話してしまったせいか。

 

 オレは、早くも一回目と違う会話の内容に焦りを覚えた。ただそれを、顔に出すのはもっとまずいと切り替えた。


「か、可愛いところ」


 確か、好きになった理由をこう答えた。笑顔が引きつる。ちゃんと笑えているだろうか。


「えっ、あ、あの、でも、私、八神君のことよく知らないし。えっと……」


 この時、如月は自分が騙されていることを知っていたのに、この態度。告白を鵜呑みにしてないぞ、さあどう来る? とオレの出方を伺っていたのだろう。怖すぎる。


「それじゃあさ、とりあえずオレのことをよく知ってもらう為に、二人でどこか出かけない?」

「えっ?」


 ん? また如月が、素に戻った気がする。何なんだろうこの違和感。


「来週、隣町でお祭りあるの知ってる? 一緒に行かない?」

「えっと……」


 如月は恥ずかしそうに俯く。何なんだ、そのキャラは? こいつの演技力凄いな。文芸部じゃなくて、演劇部に入った方がいいんじゃね?


「……ダメ?」


 オレは甘えるように続けた。まあ、オレも大概たいがいだけどな。如月は真っ赤になって、俯きがちに答えた。


「わ、分かった。……いいよ」


 この時、一回目のオレは「楽勝だ」と勘違いしていた。だが既に、オレは完全に如月の術中に嵌っていたわけだ。

 

 何が「地味で暗くて、男に免疫なさそうな陰キャ」だ。完全に男を手玉に取って来てる。大人しそうな風態で、こっちを喰らおうとしてる。マジ怖い。女って怖い。


***


 オレは体育館裏で如月に告白した時のことを、改めて思い出していた。


 あの「違和感」――


 如月は祭りの夜、オレたちの会話を「聞いていた」と言っていた。恐らく教室に入ろうとした時、オレたちの声を廊下から、聞き耳を立てていたのだろう。


 ということは、会話の内容は分かったが、「誰が話しているか」までは分からなかったのではないか。


 だからあの会話の主を確かめる為に、わざわざ体育館裏に現れたのだ。体育館裏にいるのがオレだと確認し、初めて会話の主が誰だか分かったんじゃないだろうか。

 

 だから「素」で驚いた。


 オレたちが誰か見極めて、報復する為? 怖すぎるんだけど。


 如月の恐ろしさと執念に、改めて恐怖しながら如月の方を見遣ったら、ふっと彼女と目があった。慌てて如月は真っ赤になって俯いた。


 分かってる「フリ」だよな。オレに気のあるフリ。実際少なからず女は男に対して、こんな計算をして、男に気を持たせてるのかもしれないとマジマジと感じ、オレは軽く女性不信になりそうだった。


***


(終わった……)


 緊張の糸がとけたように、オレは自室のベッドに倒れ込んだ。


 とりあえず一日目が何とか終了した。如月は消えなかった。これを七月十三日まで続けるのかと思うと、どっと疲れが襲って来た。しんどすぎる。メンタルがやられそうだと思った。でも、もう止めようと思えなかった。


 如月がいない世界線――相手すらいない、戦えない状態より、まだマシに感じたからだ。


 それに不思議と心地よい疲労感のようなものが襲って来て、今夜はぐっすり眠れそうだと思った。


 ただ眠る前に、一回目どんなことがあったのか改めて確認しなければと、ノートを引っ張り出した。誤差が生じると、咄嗟に対応できない。未来が変わってしまう。


 オレはノートに、覚えている出来事を書き出して行った。自分はこれから如月に報復を受ける為に、何を一生懸命やってるのかと少し可笑しくなった。


つづく

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