2st round

第26話「二周目」

『死んで逃げる気っ? 卑怯者!』


(……っ)


 オレは誰かに罵倒された気がし、慌てて目を覚ました。


(何だ、今の……あれ、夢?)


 ブーブーと、スマホのアラームが鳴っている。そのスマホに手を伸ばそうとし、手が止まる。


(あれ、ここは……)


 見覚えのある場所。自分の部屋だ。どうやって帰って来たのだろう? それに確か、神社の階段を降り切った時、道の奥からトラックが見えて、


 轢かれたと思った――


 オレはその時の恐怖が蘇り、身震いした。どういうことだ? ハッと黒猫のことを思い出し、自分の体を確認した。表面的には、どこにも欠損部分はない。


 オレは頭を振りながら、けたたましくなるスマホのアラームを今度こそ切る。そして、ロック画面に戻ったスマホを見て息を呑む。


(……え、『七月四日 金曜日』?)


 本当に、本当に時間が巻き戻った? あの喋る黒猫との出会いは夢ではなかった?


 オレは半信半疑で、スマホのカレンダーを確認した。やっぱり今日は七月四日だった。いや、スマホ自体がおかしいのかもしれない。部屋にある、日付けが分かる全電子機器を確認したが、どれを確認しても七月四日なのだ。


 オレは慌てて、自分の部屋を飛び出した。父親が洗面所で髭を剃っており、母親が朝食の準備をしていた。居間のテレビを確認する。やっぱり「七月四日」だ。


 テレビの前に陣取りながら考え込んでいるオレに、もうすぐご飯出来るからと、母親が声を掛けて来た。


「今日って何月何日?」

「は? えーと、七月四日だけど、何かあるの?」


 その時、手にしていたスマホに着信があった。スマホを確認して、オレは思わず画面を二度見した。将暉からのメッセージだ。


『今日の告白楽しみにしてる』


 今日の……告白……


 それを見て確信した。本当に過去に戻って来た。七月四日。今日は如月に告白した日だ。


***


(何で、七月四日なんだよ)


 問題なのは、試験が終わった日――前日の七月三日なのだ。あの日の自分達の会話を、如月に聞かれていたことがそもそもの発端だ。

 

 あの黒猫の言葉を思い出す。

 最大限、戻せる所まで時間を戻す。


 この七月四日の朝までが、最大戻せる時間軸だったのだろう。不幸中の幸いなのが、まだ如月に「告白」していないことだ。


 七月三日の自分達の会話を聞いた如月は、心中穏やかではないだろう。ただ告白さえしなければ、まだ間に合う。というか何も始まらないし、何も起こらない。如月だって告白さえしなければ、あんなことしないはずだ。


 将暉たちに散々責められるだろうが、あんな七月十三日を迎えるなら、そっちの方が全然マシだ。


 ただこのまま学校に行って告白しないとなると、あいつらがキレそうだ。何をしでかすか分からない。


 逃げたと思われてもいい。実際逃げてるし。今日は学校を休もうと思った。今日は金曜日だ。土日を挟むし、月曜行って文句を言われても、何とかする。告白決行だけは何としても阻止だ。


 オレは母親に体調が悪いと行って、学校を休むことにした。


 これですべてが上手く行くと、ほっとしてベッドに潜り込み、オレはそのまま意識を手放した。


つづく

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