第11話「告白ドッキリ 如月心乃香sidーその5」

 八神に荷物を、図書室の指定の場所に置かせている間、私は図書準備室の冷蔵庫から、冷えたお茶のペットボトルを取り出した。


 何で図書準備室に冷蔵庫があるか知らないのだが、自分が入学した頃には既にあった。お陰で助かった。買っておくと温くなるし、自販機まで買いに走るのはわざとらしすぎる。


 私は一息ついている八神に「これ、お礼。良かったら飲んで」と、ペットボトルを差し出した。


 だが、八神はなかなか受け取らない。しまった、わざとらしすぎたか。いや、そもそもお茶がダメだったのかもしれない。私は自分のリサーチ不足に気がついた。こういうちょっとしたことから、完全犯罪は綻ぶのかもしれないと思った。


「あ、お茶嫌いだった?」


 ならここはすぐに引っ込めて、健気さをアピールだ。切り替えろ、安西先輩ならきっとそうする。しかし八神は、引っ込めらそうになっていたペットボトルを掴んで「いや、嫌いじゃないよ。ありがとう」とお礼を言ってきた。


 私はホッとして、顔が綻びそうになった。そうだ、忘れてた。仕掛けているのは、向こうも同じなのだ。私の機嫌を害そこないそうなことは、絶対しないはず。受け取らないという選択肢は、なかったのだ。


 これは「相手を落とせるか」という攻防戦だ。


「如月、今日一緒に帰らない?」


 八神はペットボトルを受け取ると、すかさず次を続けてきた。ほらそうだ。気を抜いている場合ではない。ただこの申し出は好都合だ。こちらから折を見て誘うつもりだったからだ。


「え、でも、これから委員会の仕事あるから」


 すぐにOKは出さない。ここは焦らして様子を見る。


「待ってるよ」


 もう少し。


「いや、悪いよ。時間かかると思うし。それにうち遠いし」


 帰る方向が違うとアピール。それでも食い下がってくるのか。


「それなら、なおのこと送るよ。待ってる」


 八神は優しげに微笑んだ。寒気がする。


「……やっぱ、迷惑? オレと帰るのイヤかな?」

「え、その」


 たとえ作戦だったとしても、ナチュラルに女子に接してくる八神のスキルに、私は少し脱帽しかかった。正直こんな勝ち組を、自分が本当に落とせるなんて思えなくなってきた。


 昔祖母の家で読んだ、少女漫画の台詞が急に思い出された。美内すずえ風に言うなら「恐ろしい子」だ。負けたくない。こんな生まれた時から、勝ってきた奴なんかに。


 立ち向かうと決めたのだ。まだ負けてないっ。


「分かった。多分一時間くらいで終わるから、待っててくれると……嬉しい」


 この「嬉しい」というフレーズが重要なのだ。「感謝の言葉」というのは、どんな人にとっても嬉しいはずた。たとえ八神を籠絡ろうらく出来ないとしても、彼は自分の作戦が上手くいっていると考える。


 私が八神に気があると、きっと思っているはずだ。


つづく

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