第10話「告白ドッキリ 如月心乃香sideーその4」

 私はその日の天気予報を見て、これは使えると閃いた。


「お母さん、もっと小さい折り畳み傘ない?」


「えっ、今日、雨降りそうなの? だったら、大きいのの方がいいんじゃない」

「小さいのがいいの」

「鞄に入れやすいように?」

「まあ、そんなところ。じゃあ行ってきますっ」


***


 更に幸運なことに、この日は大量の新刊を図書室に運ぶことになり、私はこの日、図書委員の当番だったのだ。完全に神が味方していると思った。


「如月さん、ちょっ、手で運ぶの? 重いわよっ、台車使いなさいよ」

「大丈夫です、このくらい。それに私が運ぶんじゃないんで」


 私はそのまま、本の入った箱をよっと持ち上げた。


***


 まだ教室に八神の鞄がある。学校内にいるはずだ。私は、八神が教室に戻ってくるのを待った。


 注意深く私は廊下の隅で、八神が現れるのを待つ。階段から登って来る八神の頭を確認すると、本の入った段ボールを持ち直し、わざとフラフラしながら八神の前におどり出た。


 私を告白ドッキリに嵌めたいなら、この状況、必ず何か八神からアクションを起こしてくるはず。私には確信があった。


「如月、大丈夫? 手伝うよ」


 ほら来た、引っかかったっ。私は今、八神に気がついたとばかりに、わざとらしく反応した。


「えっ? あ、八神君っ。わわっ」


 突然声を掛けられたていで、私は荷物を持ったまま、バランスを崩して倒れ込みそうに装う。八神は咄嗟に、私の体を支えてきた。中々の反射神経だ。帰宅部なのが本当に惜しい。


(ひっ)


 ただ計算外だったのが、八神に体を背後から、抱え込まれる形になってしまったことだ。他人に触れられる嫌悪感から、私は反射的に飛び退きそうになったが、すぐに理性のスイッチで上書きした。


(ヤバイ、鳩尾みぞおちに一発食らわすところだった)


 以前書物で読んだ「痴漢撃退法」が無意識に体現されるところだった。


 八神は私の体に触れてしまったことに慌てたのか、急いで飛び退いた。いや、そういう「ふり」かもしれない。恋愛経験がなさすぎてどちらなのか見極められないと、私はイライラしてきた。


「あ、ありがとう」


 私は焦る気持ちをぐっと堪え、謙虚さをアピールした。ここで本性を見られようものなら、計画が台無しだ。八神は「手伝うよ」と私の持っていた荷物を持ち上げて、少しふらつく。


(カッコつけて。女子が運んでいるものだから、自分なら楽勝とでも思った?)


 本というのは重いのだ。たかだか紙の集まりと、舐めている人がいるかもしれないが、集まると大変な重量になる。私は図書委員なので、この重たい本を比較的楽に運ぶ方法を熟知していた。当然、八神はその方法を知らないらしい。そんな持ち方では、腰に負担が掛かりすぎる。


(ま、教えてやらないけど)


 私は八神に、ささやかな復讐を果たした。


つづく

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る