第12話「告白ドッキリ 如月心乃香sideーその6」
私は図書室を出て行く八神を見送ると、委員会の仕事をしながら、雨が降ってくるのを待った。降水確率通りなら、神が味方してくれているなら、きっと雨が降ってくる。
***
図書室を閉める時間になった頃、本当に雨が降ってきた。
それを望んでいたはずなのに、私の体は少し震えてきた。殺人犯が計画的に人を殺しにいく時、もしかしたら、こんな心持ちなのかもしれないと思った。
別の不安もあった。もう八神は待っていないかもしれない。帰ってしまったかもしれない。そうなれば計画は誤破産だ。また新たな計画を立てるか、そのまま祭りの日を迎えるしかない。
だが、八神は教室で待っていた。机に突っ伏して寝ていた。こいつにとっての、人を騙して笑いたいという原動力は、相当なものだと思った。
「……八神君、八神君っ」
おもむろに八神が目を覚まし、起き上がる。本当に熟睡していたのだろう。頬に指の跡が付いていた。
「ごめん、お待たせ。帰ろっか。ふふっ」
ここは何か、リアクションしておいた方がいいかもしれないと、安西先輩を思い出し「跡が付いてるよ」と、はにかんでみせた。八神は、照れ臭そうに腕で顔を覆う。なんだその、可愛い子アピールは。これが演技だとしたら、アカデミー賞ものだ。
***
「げ、雨っ。さっきまで降ってなかったのに」
八神は、昇降口の扉越しに外を眺めて、嫌そうに呟いた。
このリアクション、傘は持っていないようだ。もし八神が傘を持っていたら、自分は傘を忘れたふりをし、八神の傘に入れてもらい、八神が傘を持っていなかったら、自分の折り畳み傘に彼を入れるつもりだった。
相合傘――
古典的な方法だが、極めて自然に体を密着させられる。その為にわざわざ小さな折り畳み傘を、母から借りてきた。
正直、自分の貧相な体を密着させた所で、この男が自分を女として意識するとは思えなかったけれど、逆にその貧相さが、ギャップとして響くかもしれない。
いや、何を言っているか分からなくなってきた。ただやるからには、ゼロじゃないと思いたかった。何かしら効果があると、私は信じたかった。
「今日夕方から降水確率、五十パーセントだったよ」
鞄から、私は折り畳み傘を取り出した。
「……一緒に入っていく?」
私は上目遣いで聞いてみた。自分としては、精一杯ぶりっ子しているつもりだが、他人から見たらどうか分からない。八神は一瞬たじろいだ。まずい、わざとらしかったかと私は焦った。大体女子の傘に、一緒に入ることに抵抗があるかもしれない。
普段の自分だったら、逆の状況だったとして、まずその誘いに乗らないだろう。男子と傘という密室に閉じ込められる拷問を考えたら、そのまま雨にうたれながら、走って帰ることを選ぶだろう。
「うん。助かるよ」と八神は続けた。凄いなリア充、と私は素直に感心した。
つづく
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