第8話「告白ドッキリ 如月心乃香sideーその2」

 私はいつ教室を出て行くか分からない、男子生徒たちにヤキモキしながら、図書室でずっと待機していた。


(悔しい。逃げてきた、自分が情けない)


 涙が溢れそうなのを、ぐっと堪える。自分がこんなところで悔しさに耐えているのを、あの男子たちは微塵も想像していないだろう。いや見られたら、声を上げて笑い、馬鹿にしてくるかもしれない。


 強者と言うのはいつでもそうだ。弱者に落ちたことのない人間には、決して弱者の気持ちは分からない。戦争に負けたことのない国民が、決して敗者の気持ちが分からないように。


 気がつけば空が少し薄暗くなってきていた。図書室ももうすぐ閉まる。私は図書室を後にして、恐る恐る教室に戻る。教室内にはもう誰もおらず、心底ホッとした。私はそのまま自分の席にかかる鞄を掴んだ。


 情けないことは分かっていた。だかとても、先程の男子たちに食ってかかる勇気がない。それに、自分のうだつが上がらないのは本当だ。


 もう、忘れよう。聞かなかったことにしよう。


 悔しさを、心にグイッと押し込めた。こういう時、私は自分の心が、死んでいくように感じた。

 


***


 だか次の日、体育館裏に呼び出された。

今思うと、なぜ行ってしまったのかと思う。昨日のことは忘れようと思っていたが、僅かに残っていた、人としてのプライドが、自分の足を体育館裏に向かわせたのかもしれない。


「……え?」

「いや、だから、オレ、如月のことが好きなんだ」


 昨日の男子たちは本当に「告白ドッキリ」を仕掛けてきた。正直目眩がした。「告白」して、嘘だったと「裏切る」。その告白を信じた人間を嘲笑うのだ。何という悪質な「裏切り」、これはもう「イジメ」だ。


 そう思った時、私の心に復讐の怒りが燃え上がってきた。自分を弱者とあざ笑うこいつらに、思い知らせてやると。そう考えた瞬間、不思議と私の頭は冴えてきた。人が完全犯罪を思いついた時、こんな心持ちになるのかもと思った。私はまるで走馬灯を見るように、今まで読んできた書物や、体験してきた事象を頭に巡らせた。


 まず第一声、どう答えるべきか。


 私は役者の神でも降ろしたかのように、俯いてモジモジしながら呟いた。


「や、八神君と話したこと、ないよね。わ、私なんかの、どこが好きなの?」


 八神は少し考えると、白々しく答えた。


「可愛いところ」


 はっ? どの口が言うのだと、私は叫びそうになるのを、何とかぐっと堪える。我慢だ、我慢。


「えっ? あ、あの、でも、私、八神君のことよく知らないし。えっと……」


 告白ドッキリと言うのは、告白された相手が、それを信じないと始まらない。私は答えを曖昧あいまいにし、八神の出方を待った。


「それじゃあさ、とりあえずオレのことをよく知ってもらう為に、二人でどこか出かけない?」


 そうくるのか。ここで決着をつけるつもりではないらしい。彼はさらに続ける。


「来週、隣町でお祭りあるの知ってる? 一緒に行かない?」


 決戦はその「お祭り」でと言うことか。なるほど、受けてたとうじゃないか。そう思いつつも、私はここですぐにその話に乗ると、自分の企みを気取られるかもしれないと、わざと迷っているふりをした。


「えっと」


 何だ、このキャラは? と私は自分に突っ込んだ。この感じ、どこかで。


「……ダメ?」


 八神は痺れを切らし、上目遣いで甘えるように聞いてきた。こんな感じで色んな女子に、ちょっかい出しているんだろうなと、八神に対し、軽蔑の念が込み上げてくる。


「わ、分かった。……いいよ」


 もうこのキャラ、限界だわ。

 恐らく、怪しまれてない、はず。


つづく

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