第7話「告白ドッキリ 如月心乃香sideーその1」

 人として最も最低な行為は「裏切る」ことだ。


 私には、どうしても許せないものがあった。人を馬鹿にして、あざ笑う人間のことだ。


 人が「イジメ」を行うのは、本能だと何かの書物で読んだことがある。本能なので無くならない、どうしようもないとのことだ。だからイジメられる弱者は極論を言えば、それが仕方ないと受け入れるしかないらしい。


 この世は弱肉強食だ。どんな綺麗事を並べても所詮「人間」だって動物だ。本能には逆らえない。その摂理の中、生きている。頭が良く体が強い人間がのし上がり、頭が悪く体の弱い人間は底辺へ追いやられる。弱者は強者に、何をされても文句は言えない。


 だって「負けた者」だから。

「勝ってきた者」に、何も言う権利はない。


 仕方がない、それが「世の中」だから。


 でもそれが、私にはどうしても受け入れなれなかった。偽善からではない。自分が弱者だと分かっているからだ。だから自分は、はなからその舞台に上がっていない。誰にも迷惑を掛けていない。なのに強者たちは、自分の虚栄心を満たすためだけに、弱者をあざけるため、引きり上げるのだ。まるで「悪魔」の所業だ。


 何が弱肉強食だ。私はそんなものにはまらない。私を馬鹿にする奴には皆噛みついて、分からせてやる。弱者にも牙があり、その気になれば強者だって殺せるってことを。


***


七月四日(金)


「……突然、ごめん。オレ、ずっと、如月のことが」


 私は同じクラスの八神斗哉やがみとおやのその告白に戦慄した。あの声の主はお前かと。


 それは昨日の出来事に遡る――


***


七月三日(木)


 私が部活後、鞄を取りに教室へと戻って来た時、教室から、けたたましい男子たちの笑い声が聞こえ、ギョッとした。私はガキくさい、品のない男子が大嫌いだった。なので教室に今入るのが躊躇ためらわれた。次の瞬間「二十三番って誰だっけ」という声がした。


 ――え、二十三番?


 何だか嫌な予感がして、私はそっと教室のドアに聞き耳を立てた。


「えーと、如月だな」

「如月? 如月ってどんな奴だっけ」


 嫌な予感は的中した。自分のことだ。何を言われるのか恐ろしくなって、その場から離れようかと思ったが、すくんで足が上手く動かない。


「あの、眼鏡掛けた、癖毛の、地味で暗そうな奴だよな」

「あー、あいつか。空気すぎて、話したこともねーわ」

「男に免疫なさそーだから、告ったら、めっちゃ慌てそうっ。想像しただけで、ウケるわ!」

「コロッと騙されそう! そのままやらせてくれるかもよ?」

「やだよ。あんなのとしたくねーし!」

「おいコラ、逃げんのかっ。フリでいいんだって。何も本当に付き合えって言ってないだろ。俺らを楽しませろよ!」


 沸々と、怒りと悔しさが込み上げてくる。泣きそうなのを何とか堪える。こんな奴らのために絶対泣きたくない。私は何とか震える足で、その場を離れた。


つづく

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