第3話「告白ドッキリーその3」
荷物を図書室に運び終わり、オレがふうっと一息着いてた頃、如月が図書準備室から急いで出てきた。
「これ、お礼。良かったら飲んで」と如月はお茶のペットボトルを、オレに差し出した。そんなつもりじゃなかった。ただ荷物を運んでやっただけだ。
こいつ本当に
なんだか少しくすぐったい。何なんだこいつ。頭では素直に受け取った方が、好感度が上がると分かっていたのに、なぜかオレは、素直にそれを受け取れなかった。
「あ、お茶嫌いだった?」と如月は申し訳なさそうに俯いて、ペットボトルを引っ込めようとした。オレはそれをどうしてか見ていられなくなり、慌ててそのままペットボトルを
「いや、嫌いじゃないよ。ありがとう」
そうお礼を言ったら、如月は柔らかく微笑んだ。その初めて見る如月の表情に、なぜだかドキッとした。次の瞬間、オレはハッと我に返った。今がチャンスと、すかさず言葉を続ける。
「如月、今日一緒に帰らない?」
「えっ。でも、これから委員会の仕事あるから」
「待ってるよ」
「いや、悪いよ。時間かかると思うし。それにうち遠いし」
「それなら、なおのこと送るよ。待ってる」
考え込む如月を、じっと見つめる。自分と帰るのが本当に嫌なのか、
「やっぱ、迷惑? オレと帰るのイヤかな」
「えっ、その」
ここで断られるなら、本当に迷惑だと思われてる。でも――
「分かった。多分、一時間くらいで終わるから、待っててくれると……嬉しい」
その「嬉しい」の一言でオレは確信した。もう如月は、オレのことが好きだ。
***
オレは教室で外を眺めながら、如月を待っていた。誰かを待つと言うのは、久しぶりな気がした。グラウンドで運動部が、何やら一生懸命に青春している。オレはそれを冷ややかな目で見つめた。
***
「……八神君、八神君っ」
その声に、オレは慌てて
(ち、近いっ)
どうやらグラウンドを眺めながら、そのうち、机に突っ伏して寝てしまっていたらしい。
「ごめん、お待たせ。帰ろっか。ふふっ」
如月が柔らかく微笑む。何? と思ったが、如月は頬を指先でトントンと指摘する。「跡付いてるよ」と可愛らしく笑った。オレに恥ずかしさとプライドが同時に去来してきた。思わずううっと腕で顔を
***
「げ、雨っ。さっきまで降ってなかったのに」
昇降口の扉越しに外を眺めて、不機嫌がそのまま溢れてしまう。
「今日夕方から降水確率、五十パーセントだったよ」
如月はそう言うと、鞄から折り畳み傘を取り出した。
「……一緒に入っていく?」
そう如月は、上目遣いで聞いてくる。こんな奴だったかとオレは一瞬たじろいでしまった。どうも如月といると、ペースが乱される。
***
外は大分薄暗くなってきていた。雨のせいか、外練の運動部の連中も早めに練習を引き上げており、生徒の数もまばらだった。
如月が持ってきていた小さめの折り畳み傘に、二人で入りながら歩く。雨が当たらない様にすると、自然と肩が触れる。柔らかく温かい如月の体温を感じて、ドギマギしてきた。
(何で、如月相手にこんな)
オレはその奥底から湧き上がってくる謎の感情を、必死で押さえ込もうとした。振り切る様に、如月に話しかけた。
「如月んちって、どこら辺なの」
「駅向こうだよ」
「如月って、本好きなの?」
「えっ」
如月はギョッと目を白黒させている。そんな驚くことかな?
「いやだって、図書委員で文芸部って」
「良く知ってるね」
「そりゃ……」
そう答えながら、ふっと如月の方を見ると、彼女とバチッと目があった。なぜだか彼女の目を見ていると、吸い込まれそうな感覚に
息がかかる距離に、彼女の顔がある。このままもう少し距離を詰めたら、キス出来そう。そう感じて我に返った。何考えてるんだ、オレは――
彼女はふっと視線を
「ここでいいよ。ありがとう。ここからバスだから、その傘貸してあげる」
「えっ」
ちょうどバスがやって来た。彼女はバスのステップに飛び乗ると、ドアが閉まる前に「お祭りの日は晴れるといいね」と柔らかく
つづく
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