第九話
御役目を終えたシノスケは、青ざめ絶望に濡れた顔で歩いていました
時刻は逢魔時、夕焼けによって赤く染まった空とカラスの鳴き声も合わさって、さながら幽鬼のようです
しかし、その足取りは確かに家へと向かっていました
通り道である村に入ればいつも通り、冷たい視線がシノスケに降りかかり、侮蔑の声が聞こえてくる——筈でした
村民男:ったく、迷惑しかかけねぇ奴だ
村民女:ほんとだよ。育てられた恩を返すどころか人殺しまでするなんて
村民男:憂さ晴らし位しか役に立たない女だったなぁ
シノスケ:──?
村民男:村長の息子さんを突き飛ばすなんて…打ち所が悪かったんだろう?
村民男:あの人、やたらと忌子に御執心だったからな
村民女:ったく、反抗しないで大人しく身体をあけ渡してりゃよかったのよ
村民男:白兎に噛みつかれたから、皮を剥いで賠償金の足しにしたって言ってたぜ。抜け目の無ぇ嫁さんだよ
村民女:当たり前よ、どんな病を持ってるかわかりゃしない
村民男:せめてあの処刑人も殺してくれりゃ良かったのにな
シノスケ:(──は)
村民男:白い髪に赤目なんざ、不気味だよなぁ
村民女:本当だよ。この村に災いが降ったらどうしてくれるっていうのやら
村民男:まあまあ、葬式も終わった事だし、忌子も死んだ。これから酒盛りだって村長からのお達しだ!
シノスケ:(何を──何を言っているんだ、こいつらは)
村民女:村から追い出した時は滑稽だったねぇ
村民男:ああ、みっともなく縋り付いてたな
村民女:ならあの処刑人に気があるフリでもして殺してこいって言ったら本当に行くなんて、笑い話にも程があるってもんさね!
村民男:お似合いと言えばお似合いだろう。「死を助ける」処刑人の死之輔と「首落ちる様に死ぬ」忌子の椿だからな!
村人達は大声で話していますが、周囲の誰もが気に留めることはありません
それどころか、恥ずかしげもなくツバキへの悪意を吐き散らかしています
皆笑顔でしたが、その性根は、酷く醜いものでした
シノスケ:(そういう生き方を強いられてきたのか)
シノスケ:(尊重されることはなく、大切にされることもなく)
シノスケ:(自分は卑しい人間だと、お前は言っていたな)
シノスケ:(──あいつ等の方が、よほど)
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