第六話

シノスケは、フゥとため息を吐きました


シノスケ:ツバキ。こいつを家族として迎え入れようと思うのだが、どうだ?

ツバキ:え⁉︎そ、それは願ってもいないことですけれど…よろしいのですか?

シノスケ:構わない。離れがたいと、お前も言っていただろう

ツバキ:あ、ありがとうございます!


ツバキは嬉しそうに、白兎を抱き上げました

白兎も、どことなく嬉しそうです


ツバキ:名前はどうしましょうか

シノスケ:シロでいいだろう

ツバキ:…白毛からお取りになりました?

シノスケ:わかりやすい方が良いだろ…うわっ


あまりにも安直な名前に、白兎はシノスケに襲いかかります


白兎:プミーッ

シノスケ:なんだ兎、何が不満なん…おいやめろっ裾を噛むなっ

ツバキ:も、もう少し可愛らしい名にしてあげましょう?折角家族になるのですから

    ほら、兎さんも落ち着いて


そう言われてしまい、頭を働かせますが、中々良い名前が浮かびません

悩みながらチラリと横を見ると、愛する妻と白兎が楽しそうに戯れています


シノスケ:(…子供ができたら、この様なものなのだろうか)

シノスケ:(形容し難いが、悪くない)

シノスケ:(悪くない、悪くないのだが……少し構いすぎではないか?)


ツバキはジトリとした視線に気づきもせず、目をキュッと細める白兎を撫でくりまわしています

それに嫉妬したシノスケは、少し意地悪を言ってやろうと口を開きます


シノスケ:そうだ、お前たちはそっくりだから、ツバキと名付けるのも良いかもしれ──

ツバキ:いけません!!


怒っているような、悲痛に濡れたような、シノスケが聞いたことのないような声色の叫びでした


ツバキ:駄目です、駄目なんです。こんな可愛い子に、そんな…

シノスケ:—すまない、冗談だ

ツバキ:っあ、いえ。私も、申し訳ありません

シノスケ:良い、そろそろ暗くなってきた。家に入るぞ

ツバキ:…はい


シノスケ:(あそこまで取り乱すのは初めて見た)

シノスケ:(雪原に映える赤、風情のある花だ。美しいお前を体現するに相応しい名だというのに)

シノスケ(嫌いなのか?自分の名が?なら—)

シノスケ:(あの時の笑顔は何だったというのだ)

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