第四話
それから数日後
荷造りをしているシノスケを見たツバキはこう尋ねました
ツバキ:どこかへ向かわれるのです?
シノスケ:…まだ先だが、都へ行く予定だ
ツバキ:お買い物ですか?
シノスケ:違う
ツバキ:なら、どうして…
シノスケ:…俺は処刑人だ。七日ごとに都に行き来をすることを定められている
シノスケ:(共に居られるのも此処までか)
己の仕事を恥じたことはありません
しかし、人から疎まれやすいものであることは、理解しておりました
シノスケ:(このまま黙っていることもできた)
シノスケ:(しかし、嘘をつき続けるのはあまりにも不誠実)
シノスケ:(特に、この優しい娘には嘘を吐きたくない)
何故このように考えているのか、シノスケにはわかりません
幾ら考えを巡らせても、答えは見つかりませんでした
シノスケ:あと数日経てば、此処を空ける。お前も出る支度をしておけ
シノスケ:(もとより離れることは決まっていたのだ)
シノスケ:(これから先また会うことも無い、無駄な希望は持たない方がいい)
どれほど親睦を深めようと、処刑人という事実を知ってしまえば、全員離れていったのですから
知ってしまえばこの娘も離れていくのだろう、と半ば投げやりに思っていました
シノスケ:(ああ、しかし、あの笑顔が見られなくなるのは——)
ツバキ:シノスケ様
真剣な声色に振り向くと、なんとツバキが三つ指を床につき、頭を下げているではありませんか
驚いて固まっていると、こう言いました
ツバキ:どうか、私を嫁に貰ってはくれませんか
それを聞いたシノスケの胸中は、胸の中のつかえがストン、と落ちた心地がしました
シノスケ:…この山の麓には村がある。貴女程の美貌であれば、結婚を申し出る男は多くいるだろう
ツバキ:私は貴方をお慕いしています
シノスケ:会って数日しか経っていない
ツバキ:情の強さに年月は関係ございません
シノスケ:後ろ指を刺される人生を歩んでいく人間だ
ツバキ:貴方の隣に居れるのであれば、些細な事でございます
シノスケ:貴女の夫に値する男だとは思えない
ツバキ:他の誰でもない、私が望む事なのです
シノスケ:…
ツバキ:シノスケ様と共に生きていきたいのです。どうか、お願い致します
シノスケ:…馬鹿な女だ、お前は
ツバキ:馬鹿と言われようと、阿呆と言われようと構いません!
シノスケ:本当に…面倒しかない男を想うなど馬鹿な女だ
シノスケ:愛する女を縛り付けて喜ぶような男を選ぶなど、哀れにも程がある
辛辣な言葉とは裏腹に、鉄のようだと称された顔を綻ばせました
こうして、二人はめでたく、夫婦の契りを交わしたのです
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