第三話

翌日、ツバキは恩返しに家事を申し出ました

客人なのだからその必要は無いとシノスケは一度断りましたが、ツバキの頑固さに根負けしてしまい、任せることにしました

しかし…


シノスケ:……なぜ茶碗に炭が?

ツバキ:ええと、その、米を炊いたのですが…

シノスケ:こ…め……?

ツバキ:あと、シノスケ様のお着物を洗濯中に破いてしまいまして…

シノスケ:…まさか、あの隅にあるボロ布のことか?


ツバキは家事が全くできませんでした

台所に立たせれば火柱が上がり、洗濯をすれば頭から水を被り、掃除をしたら着物が散乱するだけでなく何故かタンスに草履と鍋が一緒に入っている始末


シノスケ:家事が苦手というか、それ以前の問題だな


たった数刻で悲惨な状態となった家内を横目に入れ、炭と化した膳を前にしたシノスケは顔を引きつらせます

ツバキは穴があったら入りたくなる位に恥ずかしくなりました


ツバキ:申し訳ありません!恩返しと言いながらこの有様…どう詫びたらよいか…!

シノスケ:…いや、良い


シノスケは炭と化した米をガリガリゴリゴリと、音を立てながら食べ始めました


ツバキ:シノスケ様⁉︎いけません、お身体に障ります!

シノスケ:これで良い

ツバキ:良くありません!

シノスケ:…俺はこれが良い

ツバキ:え…?

シノスケ:俺は今まで一人で生きてきた。それはこれからも変わる事なく、他者と馴れ合う事のない生き方をしていくのだろうと、そう思っていた

シノスケ:しかし…誰かと共に食べる飯というのは、存外良いものだな

ツバキ:シノスケ様…

シノスケ:確かにこれを料理とは言えん。誰も食べようとはしないだろう

ツバキ:うっ

シノスケ:しかし、お前が俺の為に作ってくれた。それだけで口にしたいと思う

ツバキ:…!


そう言って、どこか嬉しそうに食べ進める姿を見たツバキは、身体の中が暖かい何かで満たされるような、なんとも不思議な気分になりました


シノスケ:まあ、なんだ…折角、作ってくれたのだ…

ツバキ:あら…?

シノスケ:心遣い、を…捨て…無下、に、すると…いうのも…

ツバキ:シ、シノスケ様?顔色が…

シノスケ:後味が…わる……い………


シノスケはバタン!と勢いよく倒れてしまいました


ツバキ:きゃーっ!シノスケ様っ!


炭同然のものを無理に食べ進めたのですから、身体に異変が起こるのは当たり前です

シノスケは綺麗に意識を失いました

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