正義の魔女っ子選抜試験!

やまぴかりゃー

正義の魔女っ子選抜試験!



 真っ白な廊下を、コツコツと足音を立てながら二人の魔女が歩いていた。

 二人とも「魔女といえば」というような格好をしており、時折大きな帽子のつばを摘んでは帽子の位置を直している。


 一人は真っ白、そしてもう一人は臙脂色えんじいろの帽子とローブを身に纏って、もうじき始まる「面接」について話しながら歩いていた。


「さぁ、部屋はもうすぐだ。リーラン、疲れてないかい?」


 真っ白なローブの魔女がそう聞いて、臙脂色のローブの魔女が淡々と答える。


「ホミ先輩よりは運動してるので、大丈夫です」


「はは、こりゃ大丈夫そうだね」


 軽くやりとりをしているうちに、二人は重厚な扉の部屋まで辿り着く。

 ホミは真っ白なローブの懐から、これまた真っ白な鍵を取り出して鍵穴に差し込んだ。

 軽く小気味良い音が鳴って鍵が開くと、今度は扉が擦れる重苦しい音がして、分厚い扉が動き始めた。


「相変わらず重いね、この扉は」


 やがて扉が完全に開くと、廊下からの光で埃がキラキラと輝き出す。

 あんま吸わないようにね、とホミは手を口の前でパタパタと振った。


 部屋の中は墨をぶちまけたように真っ黒で、瞬きをしても景色に変化がないほどであった。

 二人が部屋に入ると天井のランプが自動的に点灯して、十二畳ほどの部屋の中の物が視認できるようになる。

 といってもあるのは椅子が3つと机が一つで、それ以外に家具らしきものは見当たらない。


「懐かしいね、3年ぶりだよ」


「相変わらず殺風景ですね」


 部屋の奥手には書斎によくありそうな大きめの机と椅子がセットになっており、ホミはそこに腰掛ける。

 机の隣にはもう一つ小さな丸椅子があって、さらに机と向かい合う形で椅子が一つ置いてあり、まさに「面接」をする場のテンプレートがそこにあった。


「じゃ、もう全部わかってると思うけど説明するね。そういう規則だからさ」


「はい、お願いします」


 ホミは机の上に置いてあった紙の束を広げて、夥しい文字の中から読むべき場所を探り当てる。


「えっと、第66回魔女認定試験、二次面接概要……。あった」


 それから手元に置いてあったメガネを掛けて、読んでいる箇所を指でなぞりつつ試験の概要を声に出して読み始めた。

 

「なんか小難しいことが書いてあるけど、要約するとあれだね。三年に一度の公認魔女選抜試験ですってことだね。世界を裏から支えるに当たって、魔女には正しい『正義』が求められる。それを学力試験と計二回の面接で見極めるってわけだ」


「ご説明、ありがとうございます」


 大事なのはこっからだよ、とホミはページを捲る。


「えー、時間は10分以内。最初は相手の名前を聞いて、どんな魔女なのか聞いて、どんな魔法が使えるのかを聞いて、最後に正義について問う。向こうが話してくれている途中で、私が適宜質問を挟む。リーランはその様子を見て採点するだけ。特に声を出す必要はないよ。ここまでは大丈夫?」


「大丈夫です」


「よし、じゃあ続けるね。えーっと、面接開始から1分経過した辺りで『リラックス魔法』がうっすら掛けられて、時間が経てば経つほどにその効果が高くなる。こっち側にはその効果が及ばないけど、万が一のためにリラックス魔法無効化の魔法陣が刻印されたネックレスを支給……、ちゃんと着けてる?」


「着けてます。この通り」


 リーランは首元のネックレスをジャラジャラと音を立ててアピールした。


「OKだね。あんまりみんなにリラックスされても困るんだけど、まぁ制御装置があるし、それは一応リーランが担当してくれる……んだよね?」


 そう聞かれて、ポケットに入っていた片手に収まるサイズの装置をホミに見せる。


「お任せ下さい」


「よし。それで、向こうが答え終えてこっちからも質問がなければ終了。私が目線で合図するから、魔法が解かれたのを魔法感知で確認したのち退室誘導、お願いね」


「承知しました」


 リーランは臙脂色の帽子を被り直し、気合いを入れる素振りをしてみせた。


「よし、じゃああと10分くらいだから、プロフィールの最終確認でもしてのんびりして待ってよう」


 ホミはそう言い終えると、机の上の書類を纏めて端に置き、また別の紙の束を手に取った。


「今回はどんな子たちが来ますかね」


「一次面接、筆記、実技試験を突破してきた子たちだからね。とっても楽しみだよ」


 二人は面接対象のプロフィールを手に取って眺める。

 全部で4枚のプロフィールシートには顔写真や志望動機などが載っており、履歴書とほぼ変わらないような形式である。

 一つ大きく違う点を挙げるとすれば、志望動機の前にそれぞれの「正義」について記入するスペースがあることくらいだろうか。


「さて」


 やがて10分程度が経ち、リーランは面接対象の一人目が到着したことを確認した。


「ホミ先輩、では宜しくお願いいたします」


「うん、頑張ろう」


 ホミはプロフィールシートの端っこを机の上で綺麗に揃えて、独り言のように呟いた。


「この世界を善くするために必要な正義か、しっかりと見極めようか」



   

       ******




「宜しくお願いします」


「宜しくお願いします」

 

「どうぞ、お掛け下さい」


 灰色のローブを着た魔女はリーランに促されるまま椅子に座り、背筋を伸ばして姿勢を整えた。


「あなたの名前を教えてください」


「はい、私はミィルと申します」


「ありがとうございます。あなたは何の魔女ですか?」


「はい、私は救済の魔女です」


「ありがとうございます。それでは、あなたの『正義』を教えて下さい」



「はい、私の正義は『人を救うこと』です」




 一人目の面接が始まった。




「ミィルさんはどんな魔法が使えるのでしょうか」


「はい。私は人々の感情の機微を感じ取り、人知れず苦しんでいる人を見つけ出す魔法を使うことができます。さらにその原因を取り除くための魔法として、一つの物事に意識を向けさせる魔法も使うことができます」


「なるほど。後者は具体的にどのように使うのでしょうか」


「はい。一つの物事に意識を向けることができれば、その分辛いことを考える時間が減ることは確かです。故に、本来大好きだった趣味などに意識を向けさせて長所を伸ばし心の救済を図ると同時に、特定の分野での活躍を見込める人物へと成長させることで真の救済を行うことができると、そう考えております」


「……なるほど。ありがとうございます」


 ホミは手元の用紙に何かを書き入れる。

 筆が走る音だけが部屋の中に響いて、ミィルの背筋が改めて伸びた。


「緊張されてますか?」


「い、いえ!えっと、はい……」


「大丈夫ですよ、リラックスして下さい。自分に嘘をつかず、ありのままを聞かせて下さいね」


「……? はい、わかりました」


 ミィルは少し不思議そうな顔をして、それからすぐに真顔に戻す。

 しかし、先程までの緊張は大分薄れてきているようであった。


「それでは、そうですね……。あなたはそれらの魔法を使って、どのような魔女になりたいのでしょうか」


「どんな魔女、ですか?」


「どんな世界にしたいか、でも構いません。魔法を使って最終的に思い描く世界を教えていただきたいのです」


「どんな世界……思い描く……」


 ミィルの口角がほんの少し上がる。


「はい。私は最後には、多くの人から認められる魔女になりたいです。魔女の働きは実際の人々には認知されることはありませんが、直接助けた人からは認知されるという例外があります。なので多くの人々を救済し、いずれ私という存在を救済の象徴にできたらな、と思ってます」


 リーランは魔法が効き始めたことを確認して、ホミの方をちらと確認する。

 ホミは変わらず少し微笑んだような表情で面接対象を眺めていた。

 特に面接開始前と変化したところは見受けられない。


(どうやらネックレスはちゃんと作用しているようですね)


 そう思いながら、リーランはミィルに視線を戻す。

 そして、彼女の口角が先程よりもさらに上がっていることに気が付いた。


(きましたか)


「それじゃあ、あなたの目標は人を救うことではなく、自分を救済の象徴にしたい、ということになるのでしょうか?」


「いえ、人を救いたい気持ちは人一倍あるつもりです。そのために魔法の訓練も1日たりとも疎かにしませんでした。えっと、でも、人を救うのはあくまで過程に過ぎません、だから……あれ?」


「何にもおかしなことは言ってないですよ。安心して続けて下さいね」


「え……あっ、はい。そうなんです、それはあくまで過程の話に過ぎなくて、そう!私は助けた人から感謝されたいんです。誰も助けてくれなくて、家族さえ頼りにならなくて、死にたいとさえ思って、希望の光が真っ黒に塗りつぶされたその時に、私が助けてあげるんです。そのタイミングを狙うんです。そしたら、その子は私がいないと生きていけなくなると思うんです。そんな子を沢山作って、やがてみんな大人になって、それでも私から離れられなくて、ムカついたら一回突き放して私の存在の有り難みを再認識させたりして。そんな人をいっぱい増やして、私は私の居場所を作りたいんです!」


 魔法の影響を受けたミィルは緊張が綺麗さっぱりなくなり、自信満々に元気な様子で語り出した。


「えぇ、素敵ですね。ところで、どうしてそうお思いになられたのですか?」


「それはですね……、私が元々ゴミクズだったからです。なんて言うんですかね、努力したところで空回り以上の結果が出ない、って感じで。そんなんだから周りから馬鹿にされて、虐められて、殺したいほどムカつくやつが大量に湧き出てきて、でも殺してやるほどの力もなくて。だって私は誰から見ても、私から見てもどうしようもない奴だったから。だから、そんな時に誰も助けてくれなかった。趣味に没頭しようとしても、あいつらの声、顔が頭から離れなかった。穏やかに眠れた日なんてろくになかった。だから、私がそんな存在になろうと思ったんです。そうすれば、この世はとっても平和になるんです。みんな私を求めて、私がいないとダメになって、でも私が声を掛けてあげるととっても喜んだりして。みんな私のことしか考えられなくするんです。今まで好きだった娯楽も、趣味も、唯一いた友人も捨てて、みんな私のことしか考えられなくなる。そうすれば、他に余計なことは考えなくて済むようになります。私がみんなへの対処を間違えなければ、みんな幸せで在り続けることができるのです!それって、理想じゃないですか?素敵なことじゃないでしょうか!私が助けた子たちのコミュニティはやがてとっても大きくなります。その輪は広がって、人を虐めるような奴らの居場所は消え去ります。今はまだ弱者の方がマイノリティですが、いずれそれはマジョリティになります。魔女の手によって、なんて!ははは!」


 興奮状態のミィルは椅子から立ち上がって笑い声を上げる。

 リーランが「お座り下さい」と声を掛けると、「はい!」と元気よく返事をしてドカッと席に着いた。


「ミィルさん、素敵なお話をありがとうございます。それでは最後に、改めて質問させていただきますね」


 ホミは優しく微笑んで問いかける。


「あなたの正義を教えて下さい」



「はい!私の正義は『わたしを救うこと』です!」




       ******




「宜しくお願いします」


「宜しくお願いします」

 

「どうぞ、お掛け下さい」


 黒のローブを着た魔女はリーランに促されるまま椅子に座り、綺麗な姿勢で静止した。


「あなたの名前を教えてください」


「はい、私はミローネと申します」


「ありがとうございます。あなたは何の魔女ですか?」


「はい、私は追約の魔女です」


「ありがとうございます。それでは、あなたの『正義』を教えて下さい」



「はい、私の正義は『約束を守ること』です」




 二人目の面接が始まった。




「ありがとうございます。それでは、あなたがどんな魔法を使えるのか教えて下さい」


「はい。私は誰かが約束を破った時に、その被害の大きさに比例してそれ相応の罰を与えることができる魔法が使えます」


「ありがとうございます。効果範囲はどのくらいになりますか?」


「私を中心として半径約1キロです。約束をした片方が範囲内にいれば、もう片方が範囲外にいようとも魔法の効果対象となります」


「中々の規模ですね。被害の大きさに比例して罰が大きくなる……ということでしたが、少し具体例をいただきたいです」


「約束を忘れたり、勝手な言い分で反故にすると、その約束の内容によって罰の大きさが変動します。遅刻や履行の遅延であればその時間によってちょっとした不幸が訪れる程度です。突然の雨に降られたり、転んだりします」


「なるほど。因みに、最も大きい罰はどのようなものになるのでしょうか」


「さぁ……。不可侵条約や国際法を犯せば国が滅んだりすることもあるかも知れませんし、今はまだ地球以外の生命体が確認されていませんが、今後彼らと大きな約束事をしたとして、それを破れば地球が滅ぶ可能性も否定はできません」


「大きな可能性を秘めた魔法ですね。素晴らしいです」


「いえ……それほどでも」


「それでは、あなたはその魔法を使ってどのような世界を目指したいですか?あなたの思い描く理想を、是非お聞かせ願いたいです」


「理想……」


 リーランはミローネの表情を目を凝らして見てみるも、先程のミィルの時とは違って特に変化は見て取れない。

 ただ、徐々に彼女の纏う雰囲気が変化し始めていることだけを感じ取ることができた。


(今回は静かに終わりそうですね)


「どうでしょう。素直に仰っていただいて構いませんよ」


「……はぁ。そうですね、正式な魔女となった暁には、この魔法を全世界に掛けたいです。私は魔力が乏しいので、先輩方の魔力をお借りしてその夢を成し遂げたいと考えてます」


「なるほど。そうすることで、ミローネさんの理想の世界が手に入ると。そういうことで合ってますか?」


「……多分、そうです。そうすれば戦争を起こす国は無くなるし、皆適当な約束を結ぶことも無くなります。法律だって今みたいな超遅効性ではなく即効性、いや、即時性を持つ意味のあるものになります。犯罪が無くなれば世界はより良くなることは明白ですし、悲しい思いをする人はサイコパスや精神疾患患者を除いて殆どいなくなるかと」


「それは素敵な世界ですね」


「約束という言葉が、とってもおもくなるんです。今まで適当に約束を結んでいた人たちも、約束を破ることがこわくなるはずです。契約書だろうと口約束だろうと、そこに法的効力があろうとなかろうと、みんな約束はだいじにする世界こそわたしの理想です」


「ありがとうございます。ところで、魔法はその人の欲望や願望を表したものになる、という説があります。あなたの場合はそれが『追約』ということになるのですが、何かお心当たりはありますか?」


 ミローネは少し言い渋った様子で10秒程度黙り込んでいたが、やがてゆっくりと口を開いた。


「……小さい頃、母が私に言ったんです。必ず帰ってくるからねって」


「昔のお話、ですか。どうぞ続けて下さい」


「いい子にしててまっててねって、ゆびきりまでして約束してくれたんです。それが嘘だったら、約束なんてなんの意味もありません。孤児院でも同じようなはなしをたくさん聞いて、みんなかなしい思いをしてました。愛しますと誓ったくせにわかれて、まもるからねと甘い言葉をくれたのにお金に困ったらすぐに見捨てて、健康ならそれでいいって言ったくせに自分の思いどおりにならなくて怒る。言葉にまるで重みがなくて、せきにんを他人に押しつけて、一貫せいのかけらもない」


 ミローネの目は若干虚になっていた。

 ホミを見つめるわけでもなく、宙のどこかをじっと、ぼんやりと見つめながら話し続ける。


「やくそくを皆んなが守れば、悲しむ人はへるはずです。だから、私はこんな魔法が使えるのかもしれないです」


「なるほど。ありがとうございます。でも全世界に魔法がかかってしまったら、あなたのお母さんが戻ってきた時にとても大きい罰が下ってしまうのでは?」


 ミローネの身体が一瞬ぴくりと反応する。

 同時に一瞬目を見開いて、それから1秒もしないうちにまた虚な目に戻った。


「ママはいつまでに帰ってくる、とはいいませんでした。だから、履行の遅延にたいしての罰は発生いたしません」


「ほう」


「あと、ママにはもうばつが下っています」


「……そうなんですか?」


「ママは元から帰ってくるつもりはありませんでした。わたしを捨てるつもりで、あんなきぼうを持たせることを言ったのです。それは、もとから守るつもりのない約束をしたのといっしょです。だから、バチが当たったんです」


「仰る通りですね。因みに、お母さんにはいつ、どんな罰が下ったのですか?」



 ミローネは無表情のまま、涙を一つ流して言った。



「わたしとゆびきりをした時、部屋いっぱいにはじけて死にました」



「なんと、その頃から魔法が使えたのですね。幼い頃から素晴らしい素養をお持ちで」



「ありがとう、ございます……?」



 ホミは手元の用紙に何かを書き込んで、それからまた微笑んで言った。


「沢山お聞かせいただきありがとうございました。最後に、改めて聞かせて下さい」


「はい」


「あなたの正義とは、何ですか?」



「わたしの正義は『約束じぶんを護ること』です」




       ******




「宜しくお願いします」


「宜しくお願いします」

 

「どうぞ、お掛け下さい」


 深緑のローブを着た魔女はリーランに促されるまま椅子に座り、片手でメガネの位置を調整した。


「あなたの名前を教えてください」


「は、はい!ミントと申します」


「ありがとうございます。あなたは何の魔女ですか?」


「私は探究の魔女です」


「ありがとうございます。それでは、あなたの『正義』を教えて下さい」



「私の正義は『人の可能性を探し続けること』です」




 三人目の面接が始まった。




「ありがとうございます。それでは、あなたがどんな魔法を使えるのか教えて下さい」


「わ、私は病気を治す魔法が使えます」


「治癒魔法ですか。具体的にはどのような病気を治すことができるのですか?」


「えっと、インフルエンザやコロナウイルスは比較的簡単で、難しいやつだと癌とかも、できます!」


「それは素晴らしいですね。歴代の魔女にも治癒魔法を使える人はちらほらいましたが、癌を治せる人は初めて見ました」


「で、でも子供とかはちょっと難しいんですけどね……」


「なるほど。対象の大きさも難易度に関わってくると」


「そうなんです。私の魔法は最新の知識を以って成り立っているので、日々常に勉強、です」


「知識をもとに魔法を行使するのですね。要するに、現代の医療技術を魔法で代替しているような形になるのでしょうか?」


「うーんと、その点についてはちょっとわからないです」


「というと?」


「私の魔法を何か一つの言葉で表すとすれば、イメージなんです。悪い細胞はここにあって、これを取り除けば治る。この部分は壊しても問題ないから難易度は低いし、この腫瘍はデリケートなところにあるから注意が必要……ってイメージを最新の知識から創り上げて、それを用いる感じです」


「実際は魔法はどのように行使するのですか?」


「目を瞑って、病気の方の患部の近くに手を当てて魔法を発動します。イメージが誤ったものだと大事な部分を消してしまうことがあるので、本当に慣れるまではあんまりやりたくないんですけど……」


「なるほど、ありがとうございます。しかし凄い能力ですね、正直驚きました」


「えへへ……ありがとうございます」


 リーランは内心かなり驚いていた。

 治癒系の魔法は非常に稀で、ましてや癌のような細胞に悪さをする病気を治すことができる魔法なんて、前代未聞である。

 と同時に、一つの疑問が浮かんだ。

 魔女というのは世間一般の人々に認知されていない存在が故に、表舞台で活動することはほほ無い。

 となると、最新の医療技術の知識を一体どこで仕入れているのだろうか、と。


「ところで、その医療に関する知識はどこで手に入れているのですか?」


「そ、それはその、大学では医学部でして。教授から色々教わってるんです。それ以外にも、ちょこっとやってたりすることはありますが……」


「上手に人間社会に馴染めているのですね。素敵なことです」


 ホミは手元の用紙に何かを書き入れ、その間ミントは深呼吸して緊張を紛らわそうとしていた。

 

 そして、徐々に魔法が効いてくる。


「お待たせしました」


「いっ、いえ」


「それではあなたの目標は、ご自身の魔法を使って一人でも多くの人を助けたい。ということになるのでしょうか」


「あっ、はい。そうなんです。私は魔女なので、いつかは立派な病院で……とはいかないかもしれませんが、それでも私じゃないと助けられない人を一人でも多く助けてあげたいんです」


「正式に魔女として認められることで、その夢に近付くことができる、そうお考えなのですね」


「あ、それもそうなんですけど、その……、

あっ、えーっと、あれ?」


「大丈夫ですよ。正直に、思っていることを仰ってください」


「え……?あっ、はい。えっと、正式に認められたら、そうですね、夢に近付きます。色んなことができるようになるので……」


「正式に魔女になったら、その権限で何をしたいですか?」


「したい、こと?」


「えぇ、ありのままを仰ってください」


 ありのまま、という言葉を聞き、ミントの表情が僅かに変化する。

 魂の抜けたような、ぼーっとしているような表情で、やがて小さな声を絞り出した。


「……はい。その、実験をしたいです」


「魔法の、ですか?」


「はい。今までは大体、猿とかでしたので」


「猿、ですか?」


「はい。田舎の山まで行って、罠を仕掛けて、猿を捕まえて、実験してました。でももう正直限界があって……。私は治療が不可能とされた病気を治せてこその魔女だと思うんです。だからやっぱり脳を研究したいんです。猿の小さな脳をいじったところで得られる知識なんて、たかが知れてるので」


「つまり、人間の被験体が欲しい、と?」


「まぁ、そういうことになります。死んでもいい人間が欲しいです。いるでしょうそんな奴、そこら辺にいっぱい。どんなに品性が腐っていても、形が人間であればなんだって構いませんから。……私の魔法はきっと無限大の可能性を秘めています。細胞を若返らせる、若しくは維持させる、細胞分裂の上限を取り除く。それができれば不老不死だって夢じゃありません。そんな崇高で高尚な実験のモルモットになれるんです、きっと喜んで死んでくれるはずでしょう」


「確かに、夢物語が現実になりそうな予感がしますね」


「分かっていただけたようで嬉しいです。あと、できれば若い方がいいです。子供とか、それとレアだとは思いますが赤ちゃんとかも。やっぱり子供と大人って大分構造が異なる部分があってですね。あっ、勿論アレですよ?不慮の事故とか、そういう系で亡くなった子たちでいいんです。ほら、時々トイレで出産する外国人とかいるじゃないですか。あーゆー人たちに掛け合って、お金と交換みたいな……うん、Win-Winですね」


「確かに正式に魔女として認められれば可能かもしれませんね」


「やっぱりそうなんですか?そうですよね、私の魔法の可能性を前にしたら、協力せざるを得ませんよね?なんなら、命を投げ打って協力してくれる人も出てくるかもしれません。だって、投げ打った命が返ってくる可能性さえあるのですから」


「えぇ、いるかもしれませんね。私もあなたの今後の成長が気になりますよ」


「ふふ、あなたもその手の人だったりして」


 ホミが手元の用紙に何かを書き入れている間、リーランはミントの表情を注視する。

 なんだか少し楽しそうで、一人別の世界に生きているような顔をしていた。

 きっと今なら何を聞かれたとしてもゲロゲロと本音を吐いてしまうような、そんな状態なのだろう。

 やはり恐ろしい魔法だな、と一人こっそりと思ったのだった。


「沢山お聞かせいただきありがとうございました。それでは最後に改めてお聞きします」


「はい」


「あなたにとって、正義とは何ですか?」



「私の正義は『わたしの可能性を探し続けること』です」




       ******




「宜しくお願いします」


「宜しくお願いします」

 

「どうぞ、お掛け下さい」


 真っ赤なローブを着た魔女はリーランに促されるままに椅子に座り、前髪を直してから視線を前に向けた。


「あなたの名前を教えてください」


「……ヴィーネです」


「ありがとうございます。あなたは何の魔女ですか?」


「圧壊の魔女です」


「ありがとうございます。それでは、あなたの『正義』を教えて下さい」



「私の正義は『悪人をこの世から消すこと』です」




 四人目の面接が始まった。




「ヴィーネさんはどんな魔法が使えるのでしょうか」


「対象に圧力をかけて押し潰す魔法です」


「パワフルな魔法ですね。潰せる物体の大きさに限界はありますか?」


「今のところ限界は分かりません。今まで潰した中で一番大きかったのは、二階建ての一軒家です」


「それは強力ですね。ところで、その建物の中に人は居ましたか?」


「はい」


「なるほど、ありがとうございます」


 ホミが手元の用紙に何かを書き入れて、その音だけが部屋に響く。

 リーランはヴィーネの表情をじっと見た。

 常に少し苛々しているような様子で、目つきも悪いせいか声をかけたら「あぁん!?」と返されそうな雰囲気を纏っている。

 と、ヴィーネと一瞬目が合った。


「…………ふん」


 反射的にリーランは目を逸らし、その反応を見たヴィーネは不機嫌そうに鼻を鳴らした。


「お待たせしました。それではヴィーネさん、あなたは正式な魔女になって、どのように世界を支えるおつもりなのでしょうか」


「……悪い奴らを皆殺しにして、世界を平和へと大きく前進させます」


「悪い奴ら、ですか。例えばどのような方々かお伺いしても?」


「テロを企んでる連中、金のことしか考えられない政治家、人を操った気になってる新興宗教家、弱いものいじめでしか自尊心を保てないクズども、逃げ仰せたと勘違いしている殺人犯。ほんの一例ですが、そんな奴らです」


「なるほど。彼らをあなたの魔法で潰して回ることで、やがて世の中は平和に近付いて行くと、あなたはそうお考えなのですね」


「はい。戦争を裏から操ってる集団、テロ組織も私の魔法なら一網打尽です」


「最近は用心棒として魔女を従えている組織もいるようですが、魔女が相手でも勝てそうですか?」


「少なくとも負けることはありません。敵の攻撃魔法も圧壊の対象なので。まぁそもそも本体を潰すのに1秒もかからないので、そこまでする必要もありませんが」


 強すぎる、とリーランは内心思った。

 魔法は本人の欲望、願いが色濃く表出したものであると昔からされてきたが、どんなに世の中を憎んでいても、ここまでの破壊の力を持った魔法を所持している者はそういない。

 他に何か理由がありそうだと、リーランは改めてプロフィールを確認する。


「とても強力な魔法なのですね。恐らく幼い頃から多くの訓練を積んできたとお見受けしますが、親族に魔女の方がいたりなどされますか?」


「親族にはいません。師匠と呼べる魔女はいました」


「そうでしたか。その方からはどんなことを教えてもらいましたか?」


「師匠からは、腐った世の中について教わりました。世襲制度、既得権益、不毛な権力争い。世の中は一度壊さないと治らないものが大量にあって、お前はそれを壊す役割を持って生まれてきたんだと教わりました。師匠は記憶に干渉できる魔法使いだったので、下準備は師匠が、実行は私の役目だと」


「ありがとうございます。それでは、あなた自身はどうお考えなのでしょうか」


「私自身……?今伝えた通りです。私はこの世界のを殺して回る。師匠の望んだ世界を私が創り上げるんです」


「そうですか。お師匠様のお考えはあなた自身の考えと微塵も相違がないと」


「はい。師匠はそういったクズどもが支配する世界で、両親と弟を失いました。想像も絶する話です。聞きますか?」


「そうですね、合格して一緒にお仕事をすることがあれば、是非」


「……そう」


 面接対象の口調が露骨に変化するタイミングがある。

 そういう時は、決まって魔法の効果が現れ始めた証拠。

 ここからが正念場、とリーランは念のため周囲を確認してからより一層意識をホミに集中させた。


「一つお伺いしたいのですが」


「何ですか」


「もしあなたのお師匠様が、あなたの中でいう『悪い人』だった場合、あなたの考えに変化はありますか?」


「は?」


 不意を突かれたような顔をするヴィーネに反して、微笑みながら淡々と話を続けるホミ。

 その様子はさながら圧迫面接のようであった。


「例えばあなたのお師匠様が、どこかの『悪い人』を殺したとしましょう。でもその人の子供や奥さんは、彼の悪行を知らなかった。とすれば、彼らからすれば夫、又は父親がただ単に辻斬り的に殺されたことになります。……ということがあったと仮定した場合、お師匠様は一部からすれば『悪い人』となってしまうわけですが──」


「そんなことはありえません。師匠は誰かが悲しむことはしない。だって、そう言ってたから」


「後ろめたいことは誰だって隠したいものです。あなたに黙っていた秘密の一つや二つ、あってもおかしくはないでしょう」


「師匠は私を信じてくれていました。出会ってから4年間、ほぼ毎日一緒にいたんです。そして、あの人の言うことをずっと聞いてきた。悪い人を殺せば世界は浄化されるって。私の魔法はそのためにあるんだって。何も間違ってないし、間違えたこともなかった」


「そうですね。でも彼らにだって正義はある。それに彼らの親族だって、仮にその人が悪いことをしていると知っていたとしても、死んでしまったらとても悲しむはずです。世界のほんの一部が浄化されるとして、その過程で犠牲になった『善い人』たちについては、どう思われますか?」


「……師匠はそんなこと、言ってなかった」


「えぇ。ですから、あなたの考えをお聞きしたいのです」


「……わたし?」


 ホミは面接が始まった時から一切表情を変えず、ずっと微笑みながら会話を続けている。

 対してヴィーネの表情からは焦り・動揺といった感情が容易に読み取れた。

 

「あなたが過去に殺した人も同様です。彼らが死んで悲しむ人間が皆無だと、果たしてそう言い切れるのでしょうか。いえ、そう言い切れるのなら良いのです。悲しむ人がいようと、それで助かる人の方が多い。そう思うのもまた良いでしょう」


「……わたしは」


「正式な魔女になって、いつか選択を迫られる場面もあるかも知れません。あなたの行動によって多くの人々が助かる代わりに一部の人々が悲嘆に暮れる未来か、『悪い人々』が跋扈する現状とさほど変わらない未来か。それらを天秤にかけた時、あなたはご自分の正義を貫けるのでしょうか?」


「え……ぁ……」


 ヴィーネの息が荒くなる。

 

「あれ……?わたし……なんで……?」


 涙を流しながら、頭を抱える。


「わたし、今まで何人も……、いや、だってそれは、師匠が……?」


「……おっと」


 開始から時間がかなり経過しており、これ以上は危険と判断したホミはリーランに声を掛ける。


「リーラン、中止だよ」


 リーランは少し疲れた様子でホミに返す。


「……中止、ですか?」


「うん、これ以上は危ない。リラックス魔法が悪さをしているとは思えないが、元々彼女に掛けられていた魔法と反応して危険なものに変化した可能性もある。まずはリラックス魔法を解くんだ」


「ですが、ここでやめてしまえば彼女の本質が見えずに終わってしまいます」


「確かにそれが面接の主目的だが、このままでは取り返しがつかなくなるよ」


「……わかりました」


 リーランはやれやれといった様子で返事をし、装置をいじり出した。

 

「大丈夫かい?右下あたりのボタンを押せば止まるはずなんだが」


「うーん、これですかね……?」

 

「わかった、私がやろう。装置を──」


「あ、先輩」


 ホミが立ちあがろうとした時、リーランがヴィーネを指差して言った。


「彼女、答えが出たみたいですよ」


「……なんだって?」


 ホミがすぐさまヴィーネの方に目をやると、そこには先ほどまでも別人のような表情をした少女がいた。

 だらりと腕を垂らし、見開いた両目からは涙が溢れ、絶望にまみれた表情をしていた。



「あは……。わたし、理解しちゃった……」



「リーラン、魔法を解くんだ」



「ただみんなと幸せに暮らしたかったの。強力な魔法なんて、一生使いたくなかった」



「装置を渡すんだ。私が止める」


 

 ホミが立ち上がり、リーランに近付く。



「でも、私の居場所は私が自分で潰したんだった。……それが正義だと、思わされてた」



「リーラン!!装置を渡せ!!」



 ホミは装置をリーランから取り上げ、ボタンを押そうとした。



「よかった……」



 刹那、部屋の中心部から強力な魔力反応がして──




「世界が、また少し綺麗に、なぎっ」




 べしゃり。




「うぉっ……」



「……あらら」



 

 ホミが薄らと目を開けると、そこに少女の姿はなかった。

 その代わりに、少女が立っていた足元には真っ赤な水たまりがいつの間にか広がっていた。

 そしてその中心にはかつて少女を形成していたもの、それを包んでいたものが小さな山を作っている。

 それをさらに上から包んでいた真っ赤なローブが、血液と体液を吸ってより赤く変色していた。


「…………」


「……うわぁ、グロいですね」


 真っ黒な壁には恐らく大量の飛沫が飛んでおり、俯瞰して見ればそれは花火のように見えるであろうことは容易に想像がついた。

 ホミは真っ白なローブに付いた赤い斑点を見た後、リーランの顔に視線を移す。


「……リーラン」


「その、申し訳ありません」


「……どうして止めなかったんだい?」


「……正式な魔女になるには、強い正義が必要です。だから、彼女の正義がどう変容するのか見届けたかったんです。まさか、こんなことになるとは」


 ホミは徐々に広がっていく赤い水たまりを見て、それから目を瞑る。

 それから大きな溜息を一つ吐いて、険しい表情を解いた。


「……そっか。まぁ、止められなかった私にも非がある。今はとりあえず、片付けてあげよう」


「はい。確か今日は吸引魔法が使えるのが来てるはずなので、連絡してみますね」


「…………。あぁ、頼むよ」


 面接官の席にもたれかかり、ホミは大きなため息をひとつ吐いた。

 それから誰にも聞こえないような小さな声で、喉の奥から押し出すように口にした。



「彼女は一体、誰の正義を貫いたんだろう」



 

       ******




「うわぁ、想像しただけで気持ち悪い」


「臭いが酷くて、吐き気がしましたよ」


 真っ白な部屋の中。

 床も壁も天井も真っ白で、大きな窓から差し込む光が当たっているところはより一層白くなっている。

 そんな椅子と机だけの殺風景な個室の中で、紺色のローブを着た魔女と臙脂色のローブを着た魔女が、お茶を飲みながら向かい合って話していた。


「それで、結局何人合格にさせたの?」


「全員。3人ともみんな、ですよ。危険な魔法を持っている子も今話した通り自滅してくれて、まさに思い通りでした。自白魔法が上手く効いてくれたようですね」


「自白させる魔法なんて、そっちの方が危険な気がするけど。でもリーランが怖がるなんて、どんな子なの?」


「とにかくおっかないんですよ。なんにでも圧力をかけて潰せるそうで。万が一ミスって潰されでもしたら笑えないでしょう」


 リーランは注いだばかりの紅茶のカップに角砂糖を一つ、紅茶が跳ねないようにそっと入れる。

 それからスプーンの裏側を溶けかけた角砂糖の上に乗せ、ぎゅっと潰した。


「彼女は多分、悪い魔女に記憶を操作されていたんだと思います」


「記憶操作なんて、それもおっかないね」


「あくまで想像に過ぎませんが、『師匠』とかいう魔女が強力な圧壊の魔法を欲しがって、彼女を自分の操り人形となるように記憶を操作した。そして自白魔法によってその記憶の封が解かれ、自分のしたことに狂って自滅……ってところかと」


「ふーん」


 紺色の魔女は興味がなさそうに紅茶を啜る。

 リーランはそんな様子を横目で見て、向こうにあまり話を聞く気がないことを悟った。

 

「とにかく、あの3人は簡単に操作できそうですよ。少なくとも、ホミ先輩よりは」


「あれ、ホミさんってまだ洗脳中?」


 リーランは紅茶に息を吹きかけて冷ましながら、一つ頷いて肯定の意を示した。


「えぇ。お陰で面接対象が頭のおかしい奴らでも、何にも疑問に思っていないご様子でしたよ。聞きたいことも全部聞いてくれましたし」


 最後はちょっと解けちゃいましたけど、と決まりが悪そうに付け足したリーランに対し、紺色の魔女は「おー、こわいこわい」と両腕を挙げ、手首から先の力を抜いて操られた人形のように腕をぶらぶらさせた。


「いやはや、私ももう洗脳されてたりして。人形は人形でも、せめて優しく扱ってほしいもんだ」


 リーランは少しムッとした表情になって、紺色の魔女に言い返す。


「あなたを洗脳することなんて絶対にあり得ません。私の数少ない友達なんですから」


「あはは。本当、勝手だよキミは」


 楽しそうに笑う紺色の魔女に対し、リーランは何がおかしいのか分からない、といった表情で返す。


「えぇ。それの何がいけないのですか?世界を根本から浄化するためには、このくらい強引でないと」


 リーランは残りの紅茶を一気に飲み干して、脇に置いていた大きな帽子を手に取った。


「魔女協会がしきりに標榜する『正義』というものは、所詮はエゴの成れの果てなんです。自分の主義主張に幸福度、自己肯定感、世間のバイアス……。その他諸々を混ぜ合わせて出来上がったものを『正義』と呼称しているだけ。仲良くなる時も正義の擦り合わせから始まって、争いの火種も正義の齟齬から生まれます。擦り合わせて、その摩擦で火が起こるんです。争いを是とする人間がいるのも、そこに自分の正義があるから。誰かと誰かが正義のために争って、誰かの懐が潤い、その周りの誰かがいい思いをする。そんな小さなエゴが堆積して、また新たな正義が生まれるのです」


「そんな考えもまた、自分勝手だね」 


「えぇ、本当に」


 リーランは立ち上がって「そろそろ行きます」と紺色の魔女に一言告げた。

 それから帽子を深々と被り、扉へと歩き出す。

 そんな背中に、紺色の魔女が声を掛けた。


「ねぇ、リーランにとっての正義って?」


 ドアノブにかけた手が止まり、臙脂色のローブがふわりと翻る。


「……私の正義ですか?」


「うん。教えてほしいなって」


「愚問ですね」


 リーランは少し笑って、自信満々に言い放った。


「私の正義は、『私』《わたし》です」



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正義の魔女っ子選抜試験! やまぴかりゃー @Latias380

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