発表
〇ラジオ局・防音室(夜)
リリーとローズが、向かい合って座っている。リリーが、マイクに向かって話し出す。
リリー:
「真夜中の花園へようこそ!
皆さん、こんばんわ、リリーでーす! 今夜もお付き合いをお願いしますね。ミッドナイト・フラワーガーデン! お相手は、いつものシャンハイ・リリーと……」
ローズ:
「はい、トウキョウ・ローズです。今夜もよろしくお願いしますね」
(庭師):
「今夜も、いつものお二人のやり取りで放送が始まりました」
リリー:
「さて、今日は、先週から宿題になってたお便りのお返事から参りますよ。
準備はいいの、ローズ?」
ローズ:
「はい、お待たせしてごめんなさいね。円ちゃんからご相談いただいていた事、わたしなりに考えてきましたよ」
リリー:
「で、どうなの? ちゃんと答えは出せた?」
ローズ:
「もちろん……、と言いたいとこだけど、正直、あたしじゃ答えは出せなかったの。答えを出せたのはうちの息子なんです」
リリー:
「おう! 素晴らしい、円ちゃん。あなたはついにローズを降参させた第一号です……。まあ、ここは意地悪しないで、ローズの息子さんが出したお答えを伺いましょうか」
(庭師):
「ローズさんは、先日デイジーさんから聞いた答えを話しだしました」
ローズ:
「円ちゃん。円ちゃんは、お婆様とご一緒に過ごした色々な思い出がおありかと思うけど、その中で、日にちまで覚えているような、ちょっとした記念になるような日はなかったかしら? 特別である必要はないのよ。ちょっとした、例えば初めておばあ様にお会いしに行った日とか、初めてご一緒に映画を観に行った日とか、初めてご一緒にお菓子を作った日とか、まだしてないことがあるのなら、是非ご一緒におやりになって、それを記念日にしてしまえばいいわ。そして、その記念日を、毎年お祝いするようにするの。大げさにお祝いすることはないのよ。初めて一緒に映画に行った日なら、また何か映画を観るとか、別にお出かけしなくても、ヴィデオでもいいしね。初めて一緒にお菓子を作った日なら、また何か簡単なお菓子をご一緒に作るとか。そういう記念日をたくさん作って、カレンダーが記念日で埋まってきたら、きっとお婆様も、次の記念日が待ち遠しくって、ずっと円ちゃんとご一緒にいたいって、思ってくださるようになると思うの。どうかしら?」
(庭師):
「ゆっくりとではありますが、ローズさんは一気に話しました。リリーさんがあっけにとられて、ぽかんと口を開けたままにしていましたが、すぐに口を閉じて話し出します」
リリー:
「わぉ……。ごめんなさいね、円ちゃん、思わず声がでちゃったわ。これがミッドナイト・フラワーガーデンが円ちゃんにお伝えできる、精一杯のお返事ですよ。円ちゃんが、この内容でご満足いただけるといいのですけれど、もしご満足いただけなかったら、ごめんなさいね」
(庭師):
「リリーさんは、そう言いながら、少々頬を紅潮させて、ローズさんにウィンクしました。実は、ローズさんは回答の内容については、リハーサルでも話さなかったのです。ただ『大丈夫、任せて』と言って、番組の冒頭にその内容を話すことだけ決めてありました」
リリー:
「それじゃあ、今夜のメニューに参りますよ! リクエストいただいた曲の中から、3曲いきまーす!」
(庭師):
「番組はいつものペースに戻って続いて行きました。一方、番組を心待ちにしていた少年少女たち。デイジーさんは、自分の考えであることを言われて照れ臭かったのですが、ママに褒めてもらえて嬉しかったようです。
それにしても、円さんは、この回答をどう思われたのでしょう?」
〇デイジーの学校・教室(昼)
円の回想。デイジーが、ローズと話したことを円に伝えている。
デイジー:
「ママが、円ちゃんのメールの答え、今夜話すって。ラジオ聞いてくれると嬉しいな」
(庭師):
「自分のメールが、ラジオで紹介されただけでもどきどきなのに、自分の悩み事にトウキョウ・ローズが真剣に考えて答えてくれるなんて、うれしいやら緊張するやらで、複雑な心境の円さん。とはいえ、お婆様の事が気になっているのも事実なので、よい答えがもらえるものなら、是非欲しいところでした。でも、ご自身なりに受け入れがたい答えであっても、皆がこんなにご自身の事を考えてくれることが、何よりも嬉しいと円さんは思うのでした。
〇円の家・円の部屋(夜)
円が宿題をしながら、ラジオを聴いている。
(庭師):
「色々な思いを抱えて、ラジオの前で番組が始まるのを待っていた円さん。ラジオから流れるローズさんの回答に、目が見開かれるような思いがして、嬉しくなりました」
円の心の声:
「おばあちゃんと、どんな記念日作ろうかな。初めておばあちゃん家へ行ったのは、いつの頃だっけ? 一緒にお菓子作ったことあったな、あれはいつの事だったかな、そうだ、アルバムさがせばわかるはず。わからなかったら、また一緒に作ってその日を記念日にしちゃえばいいんだ……」
円:
「ありがとう。ローズさん、デイジー……」
(庭師):
「しばらく、涙が溢れてきて、顔をあげられなかった円さんでした」
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