美咲
〇デイジーの学校・教室(昼)
庭師が立っている。こちらに向かって軽く会釈してから、話し始める。
(庭師):
「先の円さんの一件から、美咲さんへの認識を改めたデイジーさんと璃々さんは、円さんも含め、美咲さんとも一緒にいることが多くなりました。美咲さんのもったりした話口は相変わらずでしたし、妙にデイジーさんにくっつきたがるのは、正直、困るのですが、デイジーさんが、もっとも気になっているテーマである優しさについて、指針めいたものを与えたくれた美咲さんを邪険にはできなくなっていました。
璃々さんは、円さんのようなタイプが不得手ではあるのですが、一緒にいることで、裕子さんたちのグループから守ることができると考え、一緒にいるようにしていました。実のところ、イジメに気づかなかったご自身を許しがたいような気持ちもあったようです。もっとも、そんな璃々さんのお気持ちに気が付いていたのは、スチュワートくんくらいのものでしたが」
円の机を囲むように、璃々、デイジー、美咲が立っている。璃々が、美咲に話しかける。
璃々:
「みーちゃんが、前の学校でイジメられてたことって、聞いてもいい?」
(庭師):
「正義感の強い璃々さんは、イジメが大嫌いです。璃々さんとしては、円さんがなぜイジメられていたのかを知りたかったのですが、昨日の今日では、さすがに聞きにくかったので、過去のこととなっている美咲さんの経験を聞くことにしたのです。昨日の様子から、美咲さんはイジメを受けた経験について、気持ちの整理ができていると踏んでいました」
美咲:
「んーとね、ずっとイジメられてたわけでもなかったんだよね、なんかね、ある日突然始まったって感じだったかな」
璃々:
「どうしてかは、わからなかったの?」
美咲:
「初めはわかんなかったんだけど、どうも、みー子をイジメてたグループの子の好きになった男の子が、みー子を好きになっちゃったんだとかって言う話を、他の子から聞いた感じ」
璃々:
「そうなんだ……
(チラッと、デイジーを見る)」
(庭師):
「最近でこそ、博之くんの意地悪は、なりを潜めてきていましたが、一時期は少々頭を悩ませていただけに、デイジーさんは、少々複雑な気分です」
璃々:
「もう、みーちゃんは、大丈夫なの?」
(庭師):
「璃々さんは、少なくとも同年代の子からイジメられた経験がないので、この話題については、慎重に聞くようにしています。」
美咲:
「うん、みー子は、全然。前の学校の話だし。さすがに九州からこっちだと、もう会わないだろうしね」
(庭師):
「美咲さんは、九州、宮崎の学校から引っ越してきたのです」
璃々:
「よかった、気にしてたら、悪いこと聞いちゃったかなって、ちょっと思ってたから」
美咲:
「大丈夫だよ、聞きたかったら、どんどん聞いて
(にっこり笑う)」
璃々:
「(にっこり笑い返して)
ありがと! みーちゃんも大変だったんだね。結構長いこと続いてたの?」
美咲:
「んー、うちの学校ってね、学年変わっても、ほとんどクラス替えとかしなかったし、2年くらいは続いてたかな」
(庭師):
「璃々さん、デイジーさん、円さんの3人は、顔を見合わせて驚きました。と、突然、円さんがポロポロと涙を流し始めます。今度は、円さん以外の3人が驚きました」
美咲:
「(心配顔で)
どうしたの、円?」
円:
「(泣きじゃくりながら)
あたしは、まだ二ヶ月くらいなのに、すごく、すごく辛かったよ。みー子ちゃんかわいそう、かわいそう……」
美咲:
「(困り顔で)
みー子は、円みたいに繊細じゃないから、そんなでもなかったってば。結構やり返してたし……。泣かないでよー」
(庭師):
「円さんも、美咲さんが辛かったことを自分のことのようにわかって、同じように辛くなったのです」
デイジー:
「(呟くように)
これも優しさなのかな……」
璃々、デイジーの方に向き直って、声をかける。
璃々:
「(にっこり笑って)
そうだね、円ちゃんも優しいね」
デイジーの心の声:
「あたしも、みー子ちゃん達みたいにやさしくなれたらいいな。また夕御飯の時にでも、ママに話してみようかな……」
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