イジメ

〇デイジーの学校・教室(昼)

   デイジーの学校のお昼休み。生徒たちは、それぞれ、仲のよい生徒同士で話し込んでいる。日に焼けた肌の男子生徒(庭師と同じ顔)が、席を立って、教室の外へ歩いていく。突然、一人の女生徒の大きな声が、教室内に響き渡る。


美咲:

「(怒ったような、大きな声で)

 ちょっと、あんたたち、今、円になんて言ったのよ?」


(庭師):

「給食あとの休み時間に、教室内に声が響きました。何事かとデイジーさんが振り返ると、美咲さんが、ゆうちゃんこと裕子さんと取り巻きの女の子達に詰め寄っているようです」


デイジーの心の声:

「どうしたんだろう……」


(庭師):

「事情がわからず、ただ見ているしかできないデイジーさんでしたが、そばに来た璃々さんが説明してしてくれました」


璃々:

「なんだか、イジメがあったって。円ちゃんが、ゆうちゃん達から、意地悪をされてたみたい」


(庭師):

「円さんとは、永遠さんに輪をかけて気の弱い女の子で、その上、永遠さんのように美しいわけでもなく、加えてお家があまり裕福ではないようで、いじめっ子たちからは、格好のターゲットだったようです」


デイジー:

「全然、気がつかなかった。イジメなんて、あったんだ……」


璃々:

「私は、ちょっと他の子からそんなことを聞いたことあったけど、あんまり本気にしてなかった。ゆうちゃん達って、他の子には普通なのにね。

(美咲に向かって)

 ねえ、何があったの?」


(庭師):

「気まずそうに、ゆうちゃんこと裕子さんと、取り巻きの女の子達が、下を向きました」


美咲:

「なんかね、円からちょっと相談されてたの。前から意地悪なメールが来たり、上履きを隠されたりしてたんだって。でね、みー子がトイレ行ってる間に、なんか裕子達が円を囲んで何か言ってるみたいだったから、あ、これは何か言われてるなって思って、大きな声出しちゃったの」


(庭師):

「それからは、美咲さんが裕子さん達に詰め寄ったり、あちこちの女の子達から事情を聞きたがるような声が上がったりと、騒然とした空気になりました。どうやら、昼休みにイジメについて円さんが美咲さんに相談していたところ、美咲さんがトイレに行った隙に、裕子さん達が円さんに『他の女の子に余計なことを言うな』と脅かしていたようなのです」


   スチュワートが、わいわい騒いでいる女の子集団を外から眺めている。


(庭師):

「女の子達のやりとりなので、ガキ大将のスチュワートくんは、静観しています」


璃々の心の声:

「(関心したように)

 スチューって、こういう時はさすがって思っちゃうな……」


(庭師):

「これが、男の子同士のことであったら、スチュワートくんは、躊躇なく介入していたでしょう。

 一方、璃々さんは、円さんや美咲さん達から事情を聞いたり、慰めたりしていました。今度は、デイジーさんがその様子を見て感心していました」


デイジーの心の声:

「(関心した様子で)

 やっぱり、璃々って、頼りになるなぁ」


(庭師):

「落ち着いてから、璃々さんが色々と話してくれました。何かと一人になりがちな円さんに、転校生で、こちらもクラスに馴染む前で一人になりがちだった美咲さんが、声をかけたりしていたのですが、それは、美咲さんなりに、円さんのご事情を察してのことだったのです。美咲さんが察したとおり、円さんはイジメを受けており、孤立していました。裕子さん達はしたたかで、周りの子たちに悟られないように、影に回ってイジメをしていたのです。孤立しがちだった円さんにとって、美咲さんは、どれ程心強い味方だったでしょうか」


璃々:

「(つくづく感心したように)

 あたしも気がつかなかった。みーちゃん、すごいね」


美咲:

「みー子も、前の学校でいじめられてたの。だから、円も、もしかしたらって、思ったの」


   璃々、チラッと裕子達の方を見てから、円の方に向き直る。


璃々:

「頼りになる友達がいてくれてよかったね、円ちゃん!」


   それを聞いて、突っ伏して泣きだす円。


(庭師):

「狙ったのか、璃々さんのこの一言で、円さんが、堰を切ったように泣き出し始めました。その様子を見て、ますますバツの悪い顔をする裕子さん達。

 その裕子さん達を改めて見て、『少しは、自分のやったことがわかった?』と言わんばかりの璃々さん」


   スチュワートが、璃々の方を見て苦笑いをしている。


スチュワートの心の声:

「やっぱり、璃々は、敵に回したくないなぁ」


(庭師):

「そして、デイジーさんは、面倒くさい女の子としか見ていなかった美咲さんの意外な一面を見て驚きながら、一方で、目を見開かれるような気持ちがしていました」


デイジー:

「そうか、これが優しいってことなんだ……」

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