優しさ

〇デイジーの学校・教室(昼)

   デイジーから少し離れたところで、永遠がきれいな、かわいらしい顔をして笑っているのが見える。未来人みきひとと何やら話をしている。


(庭師):

「最近、デイジーさんには気になっていることが一つあります。

 未来人くんについての、璃々さんのコメントを聞いたことがきっかけでした」


デイジー:

「未来人くんて優しい子だよね」


璃々:

「未来人くん? んー、あの子は優しいのとはちょっと違うと思うなぁ?」


(庭師):

「デイジーさんは未来人くんを優しい子だと思っていました。最近永遠さんと仲よくしているのが気になるところではありますが……。しかしそれはそれとして、デイジーさんから見て、永遠さんがあんなに気を許して笑顔を見せるのは珍いように見えました。自分にはあまりああいう顔は見せてくれないと。あれは未来人くんが優しい子だから、永遠さんが気を許しているのではないかと思ったのです」


璃々:

「未来人くんは、そりゃかわいくって、ちょっと珍しいくらいなつっこい人好きのする子だけど、優しいっていうのとはちょっと違う気がする」


   今一つ、ぴんとこないような顔をするデイジー。


デイジー:

「……?」


〇ローズ宅・ダイニング(夜)

   食卓でローズとデイジーが夕食を食べている。


(庭師):

「デイジーさんはお夕飯の時にママローズに聞いてみました」


デイジー:

「ねぇ、ママ?」


   ハンバーグを飲み込みながらローズに尋ねるデイジー。


ローズ:

「なーに?」


   付け合わせのキャベツを口に入れて答えるローズ。


デイジー:

「優しいって、どういうのを優しいっていうのかな?」


   ローズがびっくりしたような顔になった後、ニンマリと笑う。


ローズ:

「あらぁこの子ったら、いい事聞くようになったわねぇ!」


デイジー:

「ちゃかさないでよ、今日、学校でさ……」


(庭師):

「デイジーさんは昼間、璃々さんと話したことをローズママにお話ししました。

お二人とも食事をしながらお話を続けます」


ローズ:

「璃々ちゃんか。璃々ちゃんには聞いてみたの?」


デイジー:

「うん、聞いてみたけど、うまく説明はできないんだよねって笑ってた」


ローズ:

「あの子はなんでか、直感でいいとこついてくるわよねぇ。でもあたしも璃々ちゃんの意見に賛成かな、本当のところはわからないけどね」


(庭師):

「ローズさんも、永遠さんのことはデイジーさんから話を聞いて知っていました。素晴らしくきれいな女の子ですが、なぜだか自分に自身が持てないらしく、傍から見ていると危なっかしく見えるような女の子だと」


ローズ:

「あんた、相変わらず永遠ちゃんのことが気になってるの?」


デイジー:

「(ぷっとむくれて)

 関係ないでしょ! 質問に答えてよ」


ローズ:

「そうねぇ……。その質問に対する答えはね、あんたが自分で出した方がいいとは思うけど、あたしがどう思ってるかくらいは話せるかな、それでもいい?」


    意外そうな顔をするデイジー。


デイジーの心の声:

「ママにも答えられないことがあるのか……」


デイジー:

「うん、教えて?」


ローズ:

「あたしが考える優しいっていうのはね、一言で言えば他の人の身になって考えられることよ」


デイジー:

「(困った顔になって)

 ?? それがそんなに難しいことなの?」


ローズ:

「例えば……そうね、デイジーに意地悪をする子がいたとするでしょ?」


(庭師):

「デイジーさんはすぐ博之くんの顔が浮かびましたが、すぐに振り払いました。ローズさんはなんとなくそれを察してニヤっとしますが、構わず続けます」


ローズ:

「その子の身になって考えることができる?」


デイジー:

「ああ、うん。できると思うけど……」


ローズ:

「ふふ、いい子ね。あんたは優しい子だと思うよ。でね、もう少し先があるの」


デイジー:

「先?」


ローズ:

「そう。その子の身になってね、でも自分の目でその子を見て考えるの。その子にとって必要なものは何かとか、その子が幸せになるにはどうしてあげればいいかとかね」


デイジー:

「でもその子がどうして欲しいかなんて、その子にしかわからないんじゃない?」


ローズ:

「(にっこり笑って)

 お! いいとこに気がついたね。その子がどうして欲しいかとか、その子にとって何が必要かなんてのは、色々経験を積んでないとわからないよね。だから若いうちは、中々人に優しくするのって難しかったりするんだよね」


   一息ついて話を続けるローズ。


ローズ:

「でもね、その子のことをちゃんと考えてあげることが、まずは大切なの。わかる?」


デイジー:

「わかるような、わからないような……」


ローズ:

「まああんまり頭で考えることでもないかもね。璃々ちゃんだって、言葉で説明できないだけでわかってるんじゃないかな」


   もう一息ついて、話を続けるローズ。


ローズ:

「それとね、あんたはさらっとできると思うって答えたけど、自分を嫌いな人のことをちゃんと考えるっていうのは結構難しいものなのよ? 普通はね」


デイジーの心の声:

「それはわからないでもない……」


デイジー:

「ママは自分を嫌いな人のことをちゃんと考えないの?」


   ローズ、う、という顔をして苦笑いをする。


ローズ:

「厳しいことを聞いてくるね。必要があるときはできるだけ考えるようにしてるつもりだけど、どうかしらね。自分じゃわからないかな」


デイジーの心の声:

「でもきっとママは考えてるんだ……」


デイジー:

「じゃさ、地球に優しくっていうのはどういうのかな?」


ローズ:

「(くすっと笑って)

 あー、ねぇ? 地球の身になって考えるのってよくわからないよね?」


(庭師):

「お二人は顔を見合わせてくすくす笑っておられます。

 もうすぐお夕飯も終わりですね。ある日のローズ宅のお夕飯のひと時でした」

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