美容院の日

〇美容室 Marieマリー・店の前(昼)

   庭師が立っている。美容室の方を一瞥してから話し始める。


(庭師):

「ローズさんは、髪については近所の美容院を使っておられます。

 美容院のお名前は「美容室 Marieマリー」 。璃々さんのお母様が経営している美容院です。Marieとは璃々さんのお母様のお名前、真璃江まりえさんのことですね。璃々さんのお名前はお母様から一字いただいているのです」


〇美容室 Marie・店内(昼)

   ローズが店内に入って真璃江に挨拶をする。


ローズ:

「こんにちは」


真璃江:

「(にっこり笑って)

 あらいらっしゃい。いつもラジオ聞いてますよ。今日はどうなさいます?」


ローズ:

「(にっこり笑い返して)

 ありがとう。そうね、随分暖かくなってきたからすっきりした感じになると嬉しいですね」


真璃江:

「承知しました。どんな印象がいいでしょう?」


ローズ:

「そうね、やっぱり優雅な感じがいいかな」


真璃江:

「はい。優雅な感じですね、お任せ下さい」


(庭師):

「傍から伺っていると随分大雑把なことしか話していないようですが、ローズさんの場合、いつもこんな感じなのです。しかし真璃江さんもさすがにプロです。既にローズさんのお好みを察していて、ぼんやりとしたローズさんのご要望に見事に応えて形にしていきます」


   シートに腰を掛けて、カットクロスをかけてもらいながら真璃江に話しかけるローズ。


ローズ:

「この間、珍しくお宅の娘さんがいらっしゃいましたよ」


   ローズの髪にブラシをかけながら答える真璃江。


真璃江:

「あら、何か失礼はございませんでした?」


ローズ:

「いえいえ、あの子に限って失礼なんて。何やらうちの子と捨て猫を見つけたらしくて、うちで飼って欲しいって頼みに来たんです」


真璃江:

「あらまあ! それは厚かましいことをして申し訳ありませんでした。それでどうされたんです?」


ローズ:

「厚かましいなんて。璃々ちゃんに頼みごとをされるなんて滅多にないことですもの。もちろんお受けしましたよ」


真璃江:

「うちのが頼みごとなんて確かに珍しいですけど、そんなに言っていただいて光栄ですよ。ありがとうございます。髪をすすぎますね」


   真璃江がシートを倒してシャワーの温度を調節し、ローズの髪をすすぎだす。ローズは体をシートにあずけながら話を続ける。


ローズ:

「あの子は本当に大人っぽい女の子ですよね、うちの子と仲良くさせてもらって私も嬉しいんですよ」


真璃江:

「そんな。ローズさんにそんなに言ってもらうなんて、あの子も喜びますよ。あの子はローズさんのファンみたいですから」


ローズ:

「そうなんですか? それはこちらこそ光栄です。あまりうちに姿を見せてくれないものですから、正直なところ、あまり好いてもらっていないのかなと思っていました」


真璃江:

「いいえ。あの子はきっとローズさんのことが怖いんですよ。かゆいところはございません?」


ローズ:

「大丈夫、気持ちいいですよ。璃々ちゃんに怖いものがあるなんて少し意外な感じがしますね」


真璃江:

「確かに、あの子に怖いものはあまりなさそうですね。学校の先生すら怖いと思ってないんじゃないかしら。でもローズさんは特別なんですよ」


ローズ:

「璃々ちゃんに特別扱いされるとは光栄ですけど……、何故かしら?」


真璃江:

「おわかりになりません? シートを起こしますね」


ローズ:

「(シートと一緒に体を起こしながら)

 ええ」


真璃江:

「あなたに隙が見当たらないからです、あの子から見て。まずちょっと揃えますね」


ローズ:

「はい。隙ですか? 私はたくさんあると思いますけど……」


真璃江:

「さあ、それは……。少なくともあの子から見てないんでしょう」


   ハサミを使う真璃江の動きに合わせて、少しずつ頭を動かしながら話を続けるローズ。


ローズ:

「それじゃあ、あの子が大きくなって私の隙を見つけるようになったら、きっと幻滅されちゃいますね

 (苦笑する)」


真璃江:

「幻滅なんてしませんよ。ローズさんの隙が見えるようになってくるぐらいなら、私ももう少し安心できますし。それにそうなったら、ローズさんをもっと好きになると思いますよ」


ローズ:

「あら、お見通しなんですね」


真璃江:

「それは……。ローズさんだってデイジーさんのことでしたらお見通しでいらっしゃるでしょ?じゃあお薬を付けますね」


(庭師):

「ローズさんは美容室ではいつもこのような感じで真璃江さんとお互いのお子さんの情報交換をしながら、リラックスして髪をきれいにしてもらうのです。一通りお互いのお子さんの最近の様子について話し終わる頃、大抵髪の手入れも終わります」


   真璃江が手鏡を使って正面の鏡にローズの後ろ姿を映して見せる。


真璃江:

「さあ、いかがです? ローズさんにぴったりの優雅な感じになりましたよ」


ローズ:

「ええ、さすが真璃江さん。イメージ通りですよ。いつもありがとうございます」


真璃江:

「こちらこそ、いつもご贔屓にしてくださって。よろしければ、またいらしてくださいね」


〇美容室Marie ・店の前(昼)

   ローズが店から出てくる。ぺこりとお辞儀をして見送る真璃江。


(庭師):

「出来上がりに満足してローズさんがお店を出ました。

 今日はこれから放送がある日です。ローズさんはきれいになった髪を楽しく意識しながら、歩き出しました」

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