子猫①
〇中学校の通学路(昼)
下校中のデイジーと璃々。デイジーは、手に買い物袋を持っている。自転車に乗った初老の男性(庭師と同じ顔)が、通り過ぎる。デイジーと璃々が、神社の前を通りかかる。
(庭師):
「デイジーさんが、学校から帰ってくる途中、買物を済ませて神社の前を通りすぎようとした時、一緒にいた璃々さんが、神社に寄ろうと仰いました」
璃々:
「ちょっと弟が風邪ひいちゃって寝込んでるから、お参りしてこうと思うの、付き合ってくれる?」
デイジー:
「ん、いいよー!」
デイジーの心の声:
「璃々は、弟さん思いだなー」
〇神社(昼)
デイジーと璃々が、一緒に神社の階段を上がっていく。鳥居をくぐってから、二人が手水で手を清める。
(庭師):
「手水で手を清めながら、璃々さんが言い出しました」
璃々:
「デイジーも、何かお願い事してけば?」
デイジー:
「んー、特にないけどなー」
璃々:
「ママの健康とかでも、いいじゃん?」
デイジー:
「そーだね!」
(庭師):
「二人でお賽銭をあげて、書いてある通りに三々九度をします」
デイジー:
「そういえば、あんまり神社って来ないね」
璃々:
「そうだね、なんか用がないと来ない感じだね」
(庭師):
「お二人がそんなことを話していると、お社の下に置いてあるダンボール箱から、鳴き声のようなものが、聞こえてくるのに気がつきました」
璃々が、鳴き声のする方に近づいて行く。箱の中身を見て驚いた様子になり、デイジーの方を振り向く。
璃々 :
「デイジー、捨て猫!」
デイジー、驚いた様子で璃々の方へ駆け寄り、段ボールの中を覗き込む。
(庭師):
「デイジーさんが、段ボールの中を見ると、箱の中に二匹の小さな黒猫が身を寄せ合って、頼りなさげな鳴き声で泣いているのが見えました。
少し衰弱しているようですね……」
デイジー:
「うわ……」
デイジーの心の声:
「恐ろしい程にかわいい……」
(庭師):
「すっかり心を奪われてしまったデイジーさん。その場から、動けなくなってしまいました」
璃々の心の声:
「む、不用意に呼んじゃったけど、まずかったかな……」
(庭師):
「少々後悔しだした璃々さん、捨て猫が、そんなにデイジーさんの心を捉えてしまうとは、思わなかったのです。
璃々さんも猫は好きですが、璃々さんの場合、生来、何かに心を奪われるということが、ほとんどありません。この場合も、可愛らしいとは思いましたが、それでどうこうということはありませんでした」
璃々の心の声:
「どうしたもんかな、ただ立ち去るってことが、デイジーにできるかな……」
璃々:
「デイジー、そろそろ行かない?」
デイジー、ハッとした様子になるが、立ち去りがたい。
デイジー:
「もう少し……、璃々は先に帰っていいよ」
璃々:
「デイジー、飼えないなら、あんまりそばにいると、かえって猫がかわいそうじゃないかな」
デイジー:
「どうして?」
璃々:
「飼ってもらえるかもって、ずっとこの人と一緒にいられるかもって、子猫たちが思っちゃうかもしれないでしょ?」
(庭師):
「璃々さんの鋭い指摘に、デイジーさんは、身動きが取れなくなりました。
しかし、同時に、行動の選択肢を得たことにも気がついたのです」
デイジー:
「飼えないかな……」
璃々:
「でもデイジーのとこ、お店で食べ物を扱ってるし、飼えないんじゃない?」
(庭師):
「実は、ローズさんは、駄菓子屋さんを経営しておられるのです。
ラジオ局のお仕事は、その合間にこなしておられるのですね」
デイジー:
「んー、そうかな、お店に入れなきゃいいんじゃないかな」
璃々の心の声:
「こんなにぐずぐずいうデイジーも珍しいな、よっぽど気になるんだな…。
うちじゃ無理かな、お母さんがうんて言わないな……」
(庭師):
「璃々さんが色々思いを巡らせていると、デイジーさんが意を決したように、言い出しました」
デイジー:
「ん! うちで飼ってみるように、ママに頼んでみる!」
璃々:
「ええー、大丈夫? 二匹いるけど……」
デイジー:
「わかんないけど、頑張って説得する」
(庭師):
「少々責任を感じて、璃々さんが提案します」
璃々:
「わかった、あたしも一緒にお願いしてみるよ……」
デイジー:
「ほんと? ありがとう! 璃々がいれば心強いよ!」
璃々、心細いような様子になる。
璃々の心の声:
「結果については、あんまり自信がないんだけど……」
(庭師):
「実は、璃々さんには、ローズさんは、ちょっとだけ怖い存在なのです」
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