璃々
〇場所不明・暗闇(時刻不明)
庭師が立っている。こちらに向かってお辞儀をしてから、話し始める。
(庭師):
「璃々さんの家では、美容院を経営しておられます。お父様は……、少なくとも同居はされていません。璃々さんの他に、弟さんがお二人いらっしゃいます。
お父様が同居していない理由を、璃々さんは知りません。何度かお母様(真璃江さんと仰います)に聞いたことがあるのですが、『いないものはいないの!』の一言で片付けられてしまい、取り付く島もなかったのです。璃々さんが物心つく頃には、既にお母様は美容院を経営しておられました」
〇美容室・店内(昼)
入ってきた常連客(庭師と同じ顔)に、真璃江が笑顔で声をかける。
真璃江:
「(にっこり笑って)
いらっしゃいませ! 今日は、どうなさいます?」
(庭師):
「ずっと以前は、家政婦さんが家事をしていました。璃々さんもまだ小さかったので、家政婦さんのお世話になっていたのですが、この家政婦さんがくせものだったようです。
お母様の見ているところでは熱心に仕事をする振りをするのですが、その実、璃々さんに仕事を手伝わせ、自分は最低限のことしかしませんでした」
〇璃々の家・キッチン(昼)
家政婦が食事の支度をしている脇で、璃々が窓ガラスを拭いている。真璃江が、キッチンに入ってくる。家政婦が、愛想よく真璃江に話しかける。
家政婦:
「(愛想よく笑って)
お嬢さんは、よく手伝ってくださって、本当に助かってますよ! ええ、ご自分から手伝いたいと仰って……」
(庭師):
「
小さい頃の璃々さんは、家政婦さんが恐ろしかったので、言われるままに手伝っておられましたが、その内、家政婦さんが、その手伝いを璃々さんの弟さん達にも強いるようになった辺りから、色々と考えるようになりました」
〇璃々の家・廊下(昼)
廊下の雑巾がけをしている璃々。バケツに雑巾を入れて濯いでから、力いっぱい絞る。ちらっと家政婦の方に目を向ける璃々。
璃々の心の声:
「このままじゃだめだ……。弟たちまでこき使われちゃう。あの家政婦の好きにさせないためには、どうすればいい……?」
(庭師):
「それからの璃々さんは、家政婦さんがしていることをよく見て、家政婦さんができることを、ご自分でもできるようにと、意識して手伝うようになりました。まだ小さい弟さん達に仕事をさせなくて済むよう、できるだけ多くの家事をこなす様にされておられました。そして、ある日、お母様に詰め寄って、こう仰ったのです」
〇美容室・店内(昼)
客がいなくなった店内で、璃々が母親に詰め寄っている。
璃々:
「あの家政婦さんなんだけど、クビにしてくれない?」
(庭師):
「お母様はとても驚いて、家政婦さんに事情をお聞きになりましたが、当然家政婦さんは否定いたしました。しかし、璃々さんも譲りませんでした。弟さん達も璃々さんに加勢したので、お母様も折れ、家政婦さんに暇を出しました」
〇璃々の家・廊下(昼)
真璃江が家政婦を送り出している。家政婦が、去り際に、玄関に立っている璃々の方に近づいて、耳元で囁く。
家政婦の囁き声:
「(苦々しい顔で)
全く、なんて子供だ! 呪われちまえ!」
璃々、少しびっくりした顔になるが、微笑に変わる。
(庭師):
「一方、璃々さんは清々しい気分もつかの間、すべての家事をご自身でこなさなければいけなくなりました。それが、家政婦さんをクビにする、お母様との約束だったからです。しかも、学校の成績も落としてはいけないと約束していました。お友達と遊ぶ時間などありませんでしたので、学校では孤立するようになりましたが、璃々さんご当人としては、それどころではありませんでした。
また、当然毎日の食事は粗末になりましたが、お母様もこれに文句を言うことはありませんでした。むしろ、こうした璃々さんを頼もしく思い、どこまでできるか、見てやろうというお気持ちだったようです」
〇璃々の家・ダイニング(夜)
璃々の一家が食事をしている。食卓には、少々粗末なメニューが並ぶ。真璃江は、何も言わずに食べている。
真璃江の心の声:
「ご飯がまずくなったことくらい、なんでもない」
〇数年後、璃々の家・キッチン(昼)
食事の支度をする、中学生になった璃々の脇で、璃々の弟たちが窓ガラスを拭いている。
(庭師):
「やがて、璃々さんが中学生になった頃、璃々さんの弟さん達も璃々さんを手伝うようになってきていたので、大分璃々さんも楽になりました。その頃、デイジーさんと知り合ったのです」
〇デイジーの学校・教室(昼)
デイジーが、不思議そうな顔で、璃々に話しかける。
デイジー:
「本当に璃々って大人っぽいよね、なんでかな?」
璃々:
「さあ、そうかな?
(にっこり笑って)
普通だよ」
(庭師):
「何事も、そう見えるには、それだけの事情があるものなのでしょうね」
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