デイジー②

〇場所不明・暗闇(時刻不明)

   庭師が立っている。一つ、咳払いをしてから話し始める。


(庭師):

「えー、実は、デイジーさんには、好意を寄せる女の子がおられます。永遠とわさんと仰る クラスメートなのですが、フランス人クォーターの、それはそれはきれいな女の子で、あまり表立ってはいませんが、学校ではちょっとした有名人なのだそうです」


〇中学校への通学路(朝)

   永遠が登校しているところ。永遠を見かけて、こそこそ話している生徒が見える。永遠は、そんな雰囲気を感じて落ち着かなそうに下を向く。そのすぐ傍を庭師と同じ顔をした女生徒が追い抜いて行く。


〇デイジーの学校・教室(昼)

(庭師):

「きっかけは単純でした。ある春の日、教室でのことです。その時、デイジーさんは璃々さんと何やらお喋りをしていて、永遠さんは、璃々さんのやや後ろ辺りに立っておられました。

 デイジーさんは、璃々さんとのお喋りを話半分にしながら、永遠さんの方をチラ見しておられました。永遠さんを初めて見た時から、とてもきれいな女の子だと思っておられたようです。 『きれい』という意味では、ママローズ以上の人はいないと思われていたデイジーさんにとって、それは中々に新鮮なことなのでした」


   璃々とお喋りしながら、何とはなしに視線では永遠を追っているデイジー。


(庭師):

「永遠さんは、何をするでもなくうろうろされていて、所在なげです。暖かい日だったので、窓が開けられていましたが、突然、突風が吹き込んできました」


永遠 :

「(驚いた様子で)

 ……!」


(庭師):

「風は、永遠さんの長い髪の毛を大きく舞わせ、少し彼女を怯えさせました。反対に、カーテンから解き放たれた春の日差しは、彼女の白い肌を光に包んだのです。それは、一瞬の光景でしたが、デイジーさんの目に焼き付きました」


デイジーの心の声:

「(我を忘れたように)

 女神様……?」


(庭師):

「少々ありふれた比喩ですが、デイジーさんにとっては、女神顕現とも感じられたようです。

 璃々さんは、何やら不思議に思って永遠さんの方に振り返りました。と、一瞬で状況を読み取りました。永遠さんは、思いがけなく璃々さんと目を合わせることになったので、不安そうな顔をします。璃々さんは、すかさず永遠さんに話しかけました」


璃々:

「永遠ちゃん、風強いね、大丈夫だった? 窓閉めようか?」


永遠:

「(弱々しく笑って)

 ううん、大丈夫、璃々ちゃんが寒くなければ、閉めなくても大丈夫だよ」


璃々:

「(にっこり笑い返して)

 うん、大丈夫、寒くないよ!」


璃々の心の声:

「正直、永遠ちゃんってすこーし苦手なんだよね……。きれいな女の子だとは思うし、性格も悪くないんだけど、気が弱すぎるっていうか……」


(庭師):

「璃々さんにとっては、永遠さんのようなタイプには、面倒臭さが先に立ってしまうようです。璃々さんは、永遠さんに笑いかけてから、デイジーさんの方に向き直って話しかけました」


璃々:

「ちょっと! いつまでボーっとしてんの?」


デイジー:

「(ハッとして)

 え、あたし、ボーッとしてた?」


璃々:

「ま、気持ちはわからないでもないけどね。

 (ニンマリ笑って、詠うように)

 春の日差しに舞う金色の髪、透き通るような白い肌、美しく整った顔立ち……、なんて、反則よねぇ?」


デイジー:

「(真剣に、しかし淡々と)

 うん。璃々にも見せたかったよ」


璃々:

「(あっけにとられたように)

 ……」


(庭師):

「照れずに答えるデイジーさんを見て、あっけにとられたような顔をする璃々さんでした。そうして、こう思われたのです」


璃々の心の声:

「これは思いの外、重症ですな……」

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