東大陸 森の魔女マリアの章

1,魔女マリアと昼寝猫




 私はマリア。

 私は魔女。


 魔女のご多分に漏れず、私も魔法の探究に生きている。


 専ら研究が専門で、冒険者に混ざって実戦に挑むことはしない。


 森の奥に一軒家を構えて、そこで黙々と研究の日々を過ごしている。


 そんな私が住む森は、魔女の住む森と村人からは恐れられている。


 まったく勝手な連中だ。


 病になった時だけ、人の薬を頼りにするくせに。


 ……まあ、別にいいが。


 人に嫌われるのも嫌うのも、魔女にはよくあること。


 南大陸の魔法都市ウィーリア辺りでは、そんなこともないらしいけど。


 そんな遠い世界の話は、私には関係ない。


 今更森を出て、遠くへ行く気力もないし……。


 そういうわけで、今日もいつもと同じように過ごす。


 朝起きて、陽が昇るまで魔導書の研究。


 朝昼の分の食事を摂り、足りなくなった薬草の採取。


 陽が暮れる前に家に戻り、夕飯と調合の準備……。


 いつもと変わらないルーティン。


 それが、今日は少し違っていた。


 薬草を採って帰ってくると、家の前に見たこともない動物が居座っていたのだ。


 何……これ?


 魔物……じゃない?


 四つ足で、毛むくじゃらで、耳と尻尾がついてる。


 階段の板に寝そべって……これは、日なたぼっこ?


 ゴロゴロゴロゴロ


 それにこの音は何だろう?


 もしかして、この動物からしてるのか?


 妙な音だが……妙に心地いい。


 魔法でもかけられたように、私がその音に聞き入っていると。


 ごろんっ、とそいつが寝返りを打って、パチリと目を覚ました。


 私を見ても、そいつは慌ても逃げもしない。


 ぐにょーんと、信じられないくらい伸びをする。


 それからシュタンッと、しなやかな動作で立ち上がると、私を見上げ、


「にゃあん」


 と、鳴き声ををを鳴き声かわあああああああああああああああああああああ!!!!


 かわいい。

 え? かわいい。

 かわいいかわいい。

 かわいいしか出てこなかわいいかわいい。


 ちょっと待っ、こんな感情制御できないなんて、いつ以来、


「にゃうん?」


 かっわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!


 い、今、今今今今、私の脛に頭を擦ってあばばばば。


 ズシャアと砂が飛ぶ音がして、何かと思えば自分が膝を突いた音だった。


 それでもそいつは逃げない。


 それどころか、ヒョイッと私の膝の上に載ってきばあああああああああああああああ。


 何でそこで寝る?

 何でそこで寝る?

 何でそこで寝る?


 クソかわいいんだが。


 もうなんか見てられなくて、思わず両手で自分の顔を覆った。


 触った顔がめっちゃ熱い。


 心臓がドキドキしていた。


 ズルッ


「あっ!」


 その子が膝からずり落ちそうになって、反射的に両手で抱えた。


 毛がふわぁって。


 この抱き心地も何事?


 今まで手に触れたものの中で、一番気持ちいい。


 ああ、もう……この子の正体は一体何なんだい?


 何にも分からない……けれど。


 この子が起きるまで、私はここから動けそうにないことは、少なくとも確信できた。



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