第24話 推しとの家庭訪問 4

「ライブをするのよ。あたしと庄崎咲桜凛のツーマンライブ。シュクレ・カヌレのサオリンとしてじゃなくて、ソロで来なさい」

ミミミちゃんがいつにも増して力強く、人差し指をさおちゃんの方に向けてしっかりと伝えた。けれど、さおちゃんはミミミちゃんの熱量とは違い、困ったように首を傾げていた。


「どういうつもり?」

「理由は知らないけれど、あなたのライブとあたしのライブを天秤にかけたら、キョーコさんはあたしのライブを見に来てくれている。なら、天秤にかけさせなければ良い。あたしとあなたどちらも見られるようにする」


ミミミちゃんの言い方だと、本当にわたしがミミミちゃんとさおちゃんの2択でミミミちゃんを選んで、さおちゃんを見捨てたみたいになっていて嫌だった。

「わたしは別に天秤にかけてないよ。ただ、さおちゃんに会わす顔がなかっただけで……」

わたしの曖昧な言葉はすぐにミミミちゃんのしっかりとした言葉に上書きされる。


「あなたの事情は一旦どうでもいいわ。ただ、あなたにも特等席を用意しておくから、あたしと、ついでに庄崎咲桜凛の姿もきちんと見に来なさい。これは推しからの命令。あなたに選択肢なんてないの」

ミミミちゃんがわたしの心の中を見つめてくるみたいにジッと見てくるから、迫力に負けて頷いてしまった。


わたしが頷いたのを確認してから、今度はさおちゃんの方に向き直った。それと同時に、わたしの手を握ってくる。


「さあ、キョーコさんは来てくれる。あなたはどうするのかしら、庄崎咲桜凛? あたしのついでとはいえあなたの姿をキョーコさんが見てくれるわけだし、断る理由はないと思うけれど」

「いや、わたしは別についでとかそういうつもりはないからね……」


一応否定はしておいたけれど、もうミミミちゃんとさおちゃんはわたしの呟きには耳を傾ける余裕はなさそうだった。さおちゃんは、静かにミミミちゃんのことを睨んでから、話し出す。


「出ない。わたしはもうステージには立ちたくないから……」

「それは困るわ。あなたが立ってくれないと、ただあたしがいつも通りとびきり素敵な姿をステージ上で披露するだけになってしまうわ。そしたらキョーコさんが今よりさらにあなたよりもあたしのことを好きになってしまうけど、それで良いのかしら?」

さおちゃんは一瞬不快そうな表情をしたけれど、特別感情は荒げずに、静かに言う。


「いいよ。どうせ杏子ちゃんはもうミミミの方が好きなんだし」

「ち、違うよ、さおちゃん! わたし別にミミミちゃんのことも好きだけど、さおちゃんの好きとは——」

さおちゃんの好きとミミミちゃんの好きは違うんだよ、と説明しようと思ったのに、それより先にミミミちゃんが力強く話す。


「まあ、あなたに選択肢はないんだけどね」

ミミミちゃんがわたしの手を握る手に力が入った。そして、グッとわたしの体を引き寄せて、抱きしめてくる。

「キョーコさんは人質。あなたが頷いてくれないと、今度は唇にするわ」

「へ?」「は?」


わたしとさおちゃんが同時に驚いた。

そして、さおちゃんが小さく舌打ちをしてから、俯いたまま小さな声で答える。

「わかったわよ、そのライブ、出るわ……」

「理解が早くてよかったわ」


納得した後、ミミミちゃんはさおちゃんに背を向けて、強引にわたしの手を引っ張っていく。わたしは引っ張られていきながら、後ろを向いてさおちゃんの状態を確かめた。


あ、と小さく声を出してから、さおちゃんがほんの一瞬、わたしのことを見つめた。チラリと目があった瞬間のさおちゃんの表情が寂しそうで、このまま置いて帰ってもいいのか判断に迷ってしまう。


けれど、わたしの手を引っ張るミミミちゃんの力は強くて、戻れそうにもなく、結局なされるがままに、わたしは引っ張られていったのだった。「ごめんね、さおちゃん……」と誰にも聞こえないような小さな声で自分自身への罪悪感を消すために呟くことくらいしかできなかった。

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