3-20 突然の訪問
それからさらに数日が流れた日の出来事だった。
――午前10時
いつもの日課でシドは城の門の前で警備の仕事をしていた。
空は澄み渡る青空で雲一つ無い良い天気だった。見渡す光景は、美しい山脈が広がっている。
「ジェニファー様は、今何をなさっているのだろう……」
気づけば、シドの頭の中はジェニファーのことでいっぱいだった。手が届かない相手と思うほどに、恋心が募ってくる。
(こんなことでは駄目だ。ジェニファー様はニコラス様の妻なのに……)
シドはポリーに指摘されるまで、自分の気持ちに気づかなかった。だが、無意識のうちに自覚はしていた。
子供の頃に出会ったジェニファーへの思い。ただの見習護衛騎士だった自分に声をかけ、気遣う優しくて美しい少女のことを。
だから26歳になっても、未だに結婚をしていない。
騎士であり、美しい容姿をしたシド。
今までに多くの見合い話があったし、彼に言い寄る女性達も多くいた。
だが、誰とも見合いする気にはなれなかったし、付き合う気にもなれなかった。
それは恐らく、ジェニファーのことが忘れられなかったからなのかもしれない。
だからあのとき、すぐにジェニファーだと気づいたのだ。
(一体俺はどうすればいいんだ……)
心の中でため息をついたとき。
見知らぬ青年がこちらに近づいてくることに気付いた。警戒しながら見つめていると、相手もシドの視線に気づいて声をかけてきた。
「あの……こちらのお城は、ニコラス・テイラー様が所有する城で間違いないでしょうか?」
「ええ、そうです。もしかしてこの城に何か用ですか? 約束でもしているのでしょうか?」
「いいえ、約束はしていませんが……でも良かった。この城であっているのですね?」
そして青年は人懐こい笑みを浮かべた――
****
その頃、ジェニファーはジョナサンと一緒に中庭にいた。
「ほーら。ジョナサン。楽しい?」
ジョナサンは小さなハンモックの中で、ジェニファーがゆっくり動かしながら尋ねる。
「キャッキャッ」
嬉しそうに声を上げて笑うジョナサン。このハンモックはシドが作ったもので、今日始めて遊ばせてみたのだ。
「そう? 楽しいのね? 後でシドにお礼を言わなくちゃ。彼は手先が器用なのね」
「あーあ」
コクコク頷くジョナサン。
そのとき――
「ジェニファー様ー!」
ポリーが息を切らせて、駆け寄ってきた。
「あら? ポリー、どうしたの?」
「あ、あの……ジェニファー様に……お客様が、いらしております」
呼吸を整えるポリー。
「お客様……? 私に?」
『ボニート』には、親しい人は誰もいない。全く心当たりがないジェニファーは首を傾げる。
そこへシドが姿を見せた。
「ジェニファー様の知り合いという人物が、訪ねてきているのですが……どうしましょう?」
シドの顔色は何故か悪い。
「え、知り合いって……誰かしら?」
「ダン・マイヤーという人物に心当たりはありますか?」
「ダン……え!? ダンが来たの!?」
思いがけない名前にジェニファーは目を見開く。
「やはり、お知り合いだったのですか? ジェニファー様からの手紙を携えていたので、まさかとは思っていたのですが……」
「ええ、そうよ。それでダンはどこにいるの?」
「正門の前で待たせております」
「正門ね? ありがとう。ポリー、ジョナサンをお願いね」
ジェニファーはポリーに声をかけた。
「は、はい」
「ありがとう、それじゃ行ってくるわ」
ジェニファーはスカートを翻すと、笑顔で駆けて行った。
「「……」」
その様子を呆然と見つめるシドとポリー。やがて、ポリーが口を開いた。
「……シドさん」
「……何だ?」
「後を追わなくて良いのですか?」
キッとポリーはシドを見つめる。
「え? 後を……?」
「そうですよ! シドさんはジェニファー様の護衛を任されているのですよね!?」
その言葉に、シドは弾かれたように駆けていった。
(ジェニファー様!)
シドは正門目指して走り……足を止めた。
「ジェニファー……様……?」
そこには、ジェニファーが青年と嬉しそうに抱き合っている姿があった――
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