3-21 ダン 1

 シドが駆けつける少し前のこと――


ジェニファーは息を切らせながらダンが待つ正門へやって来た。


「ジェニファーッ!」


いち早くジェニファーの姿を見つけたダンが笑顔で手を振る。


「ダンッ!」


駆けつけると、すぐにダンは嬉しそうにジェニファーを抱きしめてきた。


「ジェニファー! 元気だったか!?」


「ええ、3年ぶりくらいかしら? ダンはすっかり一人前の大人になったわね?」


ジェニファーはダンを見上げて笑顔になる。


「何言ってるんだよ? 3年前から俺はもう大人だったぞ? ジェニファーは随分綺麗になったな。あ、以前も綺麗だったけどな。本当に見違えたよ」


「ありがとう。ダンも素敵になったわよ?」


「そ、そうか? ジェニファーに言われると何だか照れるな」


顔を赤らめるダン。その時こちらをじっと見つめるシドと目が合い、笑顔でお礼を述べた。


「ジェニファーを連れてきてくれて、ありがとうございます」


ジェニファーはダンから離れるとシドに視線を移した。


「ありがとう、シド」


「い、いえ。それでジェニファー様、そちらの方は……」


するとダンが自己紹介した。


「ご挨拶が遅れて、申し訳ありません。俺は、ジェニファーの従兄弟のダンです」


「従兄弟……?」


シドが眉をひそめる。


「ダンはね、子供の頃からずっと一緒に暮らしていたの。私の大切な家族よ」


「家族……か」


ポツリとダンが呟くも、ジェニファーの耳には届かなかった。


「そうでしたか。俺はシドと言います。ジェニファー様の護衛騎士をしています」


護衛騎士という言葉に力を込めるシド。


「そうなんですね? ジェニファーを守ってくれてありがとうございます」


「それで、ダン。今日はどうしてここに来たの?」


「実は今、新しい仕事をしていてね。色々な国の名産品を仕入れて売りに出す商売を始めたところなんだ。サーシャから、ジェニファーが『ボニート』にいることを聞かされたんだ。この地域も観光地として有名だろう? だから仕入れに来たんだよ。ついでにジェニファーにも会えるしな」


「そうだったのね? わざわざ私に会いに来てくれたなんて、嬉しいわ」


ジェニファーは今までシドが見たこともないような笑顔でダンを見つめている。

その様子を見ていると、どうしようもない嫉妬心がこみ上げてきた。


(ジェニファー様があんな表情を浮かべるなんて……)


「ジェニファー。せっかく3年ぶりに会えたんだ。落ち着いて話がしたいから、どこか場所を変えないか?」


「ええ、そうね……でもどこで……」


「ここへ来るまでに、喫茶店をいくつか見かけたんだよ。そこで話をしないか?」


するとシドが会話に入ってきた。


「別にわざわざ外に行かなくても、この城で話をすればいいじゃないですか」


「い、いや。それは流石に迷惑じゃありませんか? ここは侯爵家が所有する城ですよね? 俺のような一般庶民が出入りしていいような場所では無いと思うんですけど」


恐縮するダン。


「そう……よね。ダンの言うとおりかも……」


ジェニファーが俯く。


「ジェニファー? どうしたんだ?」


すぐに様子がおかしいことにダンは気付いた。そこへシドが素早く口を開いた。


「ジェニファー様、何を遠慮なさっているのですか? ニコラス様が不在の今、ジェニファー様が女主人なのです。堂々となさっていれば良いのです」


「シド……?」


「?」


何のことか分らないダンは首を傾げる。


「そうね。シドがそう言うなら……ダン。中へ入って話をしましょう?」


ジェニファーはダンに笑顔を向けた――






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