3-13 セピア色の記憶
城に帰るため、3人は町中を歩いていた。
「あ……」
ふと、ジェニファーは前方に見える建物に気づいて足を止めた。
(あの建物……何だか見覚えがあるわ……。あ! そうだ……思い出したわ)
その建物とは、15年前に何度か足を運んだことのある写真館だったのだ。シドも気づいたのか、じっと写真屋を見つめる。
「ジェニファー様、どうかしたのですか?」
何も知らないポリーが尋ねてきた。
「い、いえ。何でも無いの」
ジェニファーは視線をそらせるも、ポリーが気づく。
「あ! あの店は写真屋さんですね!? 何か飾られているみたいですよ」
写真屋の窓からは通行人に見えるように、写真が飾られている。
「そ、そうねみたいね」
なんと答えればよいか分からず、ジェニファーは曖昧に頷く。
「ジェニファー様、お願いがあるのですが……実は私、一度も写真を見たことが無いのです。ほんの少しで構いませんので、あの棚に飾られている写真を見に行ってもいいでしょうか?」
好奇心旺盛なポリーが頼んできた。
「え……?」
15年前……元はと言えば、写真の件が絡んでこなければジェニファーはフォルクマン伯爵から恨まれることも無ければ、ジェニーやニコラスとの関係もこじれることは無かったかもしれない。
そう思うと、あの写真屋に足を運ばれるのは躊躇われた。
けれど真剣な目でポリーに頼まれては断ることは出来ない。
(そうよね……もう過ぎ去ってしまったことをいつまでも悩んでいても仕方がないわね。後ろ向きな考えは捨てないと)
ジェニファーは自分の中で結論づけると頷いた。
「そうね。では行ってみましょうか?」
「ありがとうございます!」
ポリーは笑顔でお礼を述べると、先に立って写真屋へ向かって歩き始めた。
ジェニファーも後に続こうとしたとき。
「ジェニファー様、写真屋に行ってもよろしいのですか?」
ジェニファーの気持ちを察してか、シドが小声で素早く尋ねてきた。
「ええ、いいのよ。別に行って何があるというわけでもないし。何よりポリーがあんなに嬉しそうにしているのだもの」
「……そうですね。では行きましょう」
そこで2人もポリーの後を追って写真屋へ足を向けた。
「素敵……これが写真というものなんですね」
ジェニファーとシドが写真屋に辿り着いた頃には、ポリーは真剣な眼差しで写真を見つめていた。
棚には、色々な写真が飾られている。『ボニート』の美しい山々や、町並み……中には人を写した写真もある。
「色々な写真がありますね〜」
「ええ。そうね……」
ジェニファーもポリーの隣で写真を見つめ、相槌を打つ。
「あ! 見て下さい! あの写真に映る子供たち、とても可愛らしいですね」
ポリーが1枚の写真を指さした。
「え……?」
その写真を見て、ジェニファーの目が大きく見開かれた。
「!」
背後に立つシドも驚いたように息を呑む。
棚の上に飾られていたのは、セピア色にあせた写真。
それは15年前に、ニコラスとジェニファーが一緒に撮影した写真だった――
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