3-12 ピクニック、そして寄り道
公園に到着した3人は、楽しい時を過ごした。
シドがジョナサンを抱きかかえてベンチ型ブランコに乗って遊ばせたり、芝生の上で歩く練習をさせ、シートを広げて昼食もとった。
公園には小さなふれあい動物園もあり、ウサギや羊に餌を与えたり……3人は楽しい時を過ごしたのだった――
――15時
ジョナサンはジェニファーの膝の上で、スヤスヤと気持ちよさそうに眠っていた。
「フフフ……遊び疲れたのかしらね。とってもよく眠っているわ」
ジェニファーはジョナサンの柔らかな髪をそっと撫でた。
「そうですね。でも本当にジョナサン様は可愛らしい方です。金色の髪の色はジェニファー様そっくりですね」
「そう? ありがとう」
まるで我が子のように愛し気にジョナサンの髪を撫で続けているジェニファーをシドは少しの間見つめ……尋ねた。
「ジェニファー様は子供が好きなのですか?」
「ええ、とっても好き。だってこんなにも可愛いんだもの。だから私もいつか……」
そこまで言うと、ジェニファーは言葉を切った。
いつか本当の自分の子供が欲しい。そう言いたかったが口に出すのは躊躇われてしまったのだ。
ニコラスと結婚はしたもののの、あくまでそれは書類上だけのこと。
彼が愛するのは亡き妻のジェニーだけであり、結婚したのもジェニーの遺言に従っただけのことなのだから。
(どう見ても私はニコラスから良く思われてはいないし…‥ジョナサンが私を必要としなくなる年齢になれば、出て行くつもりだもの)
ニコラスから疎まれている以上、ジェニファーはテイラー家に居座るつもりは毛頭無かった。
離婚をすれば戸籍が汚れる。ましてや貧しくて持参金も用意出来ない女性を妻に娶るような物好きな男性などいるはずも無い。
(多分、私は……自分で子供を持つことは一生無いのでしょうね)
そのことが無性に寂しかった。
「どうしましたか? ジェニファー様」
ジェニファーが途中で言葉を切った為、ポリーが尋ねた。
「いいえ、何でも無いわ。ジョナサンが眠ってしまったから、そろそろ帰りましょうか?」
「そうですね。……あ、その前にお店に寄らせて頂いても良いでしょうか?」
「店? どんな店だ?」
尋ねるシド。
「はい。メイド仲間に聞いたのですが、この先にあるマーケット街でクッキー専門店が出来たそうなんです。お土産に買って帰りたいのですが……いいでしょうか?」
「まぁ。クッキーの専門店? 私も行ってみたいわ」
甘いお菓子が大好きなジェニファーは目を輝かせた。
「そうですね。まだ時間もありますし、皆で行ってみましょう」
シドが賛同し、眠ってしまったジョナサンをベビーカーに乗せると3人はクッキー専門店へ向かった――
クッキー専門店に到着すると、シドは店内に入らずにベビーカーに乗って眠っているジョナサンを見守る役を買って出た。
そこでジェニファーとポリーだけが店内に入り、2人は思い思いのクッキーを購入すると店から出てきた。
「お待たせ、シド」
「すみません、お待たせしました」
「いえ、大丈夫です。それでクッキーは買えましたか?」
入り口付近で待っていたシドが尋ねる。
「ええ。色々な種類があって迷ったけど、買えたわ」
ジェニファーは紙袋を抱えている。
「見て下さい、私なんてこんなに買ってしまいました。メイド仲間たちに配ろうと思います」
ポリーは空になったバスケットの蓋を開けると、4つの紙袋が入っていた。
「お二人とも、良い買い物が出来たようですね。それでは帰りましょか」
シドが踵を返した時。
「あ、ちょっと待って。シド」
ジェニファーはポケットから小さな紙袋を取り出すとシドに差し出した。
「はい、受け取って。シド」
「え? これは……?」
訝し気に思いながら受け取るシド。
「今のお店でシドにもクッキーを買ったの。でもどんなものが良いか分からなくて、とりあえず甘さが控えめなジンジャークッキーを買ってみたのよ」
「俺の為に……ですか?」
「ええ。だってわざわざ護衛の為に今日はピクニックについてきてくれたのだもの。これはほんのお礼。ありがとう、シド」
「い、いえ。気にしないで下さい。これが俺の……仕事ですから。では行きましょう」
シドは自分の顔が熱くなるのを感じ、背を向けた。
「ええ、帰りましょう」
「そうですね」
こうして3人はクッキー専門店を後にし……その帰り道、思いがけない物を目にすることになる――
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