3-11 込みあげてくる複雑な気持ち
外に出て庭を歩いていると、腰に剣を下げたシドが駆け寄ってきた。
「ジェニファー様! どちらへ行かれるのですか!?」
「天気も良いし、これからお城のすぐ近くにある公園にピクニックへ行こうかと思っていたの」
「軽食も用意したのですよ」
ポリーはバスケットを嬉しそうに見せるとシドの顔が曇る。
「ピクニックですか……」
「え? どうかしたの? 何かいけなかったかしら?」
「シドさん?」
ジェニファーは慌て、ポリーも戸惑う。
「何故、俺にも声をかけてくれなかったのです? これでも一応、ジェニファー様の護衛騎士ですよ?」
シドは不満そうな表情を浮かべる。
「え? シド?」
(まさか、不機嫌な理由って……そこだったの?)
「ですが、シドさんは剣の鍛錬をしていたのではないですか?」
ポリーはシドの腰に差してある剣を指さした。
「確かに鍛錬中ではありましたが、俺の任務はジェニファー様の護衛ですから」
「護衛って……何もそんな大げさな。大体私は誰かに狙われるような覚えは無いけど」
「そんなことをおっしゃって……お忘れですか? あのときのことを」
「あのときって……あ」
そのとき、ジェニファーは15年前のことを思い出した。ニコラスを待っていた時に男性2人に絡まれて連れ去られそうになった、あの出来事を。
「思い出したようですね?」
「え、ええ。思い出したわ。それに……今はニコラスとジェニーの大切な子供を預かっているのだから、慎重に行動しないといけないわね」
本当ならジェニファーはニコラスの妻であり、ジョナサンの義母である。
だが妻である自覚を持てないジェニファーにとって、ジョナサンは我が子というよりも大切な預かりものという認識しか持てずにいたのだ。
「そうです。ジェニファー様。それではお供させて頂きますので参りましょう」
「ええ。そうね」
「行きましょうか」
シドの言葉に頷き、3人は一緒に公園へ向かった――
**
「あの、ジェニファー様。以前から思っていたのですが……ひょっとして、シドさんとお知り合いだったのですか?」
ポリーが後ろについて歩くシドをチラリと見ると小声で尋ねてきた。
「え? な、何故そんな風に思うの?」
思わずドキリとするジェニファー。
「う~ん……何となくですけど、勘? のようなものです」
「そんなこと無いわ。シドと会ったのは、侯爵邸が初めてよ」
咄嗟にジェニファーは嘘をついてしまった。
15年前の出来事を、どうしても知られるわけにはいかないからだ。
「そうでしたか……妙なことを尋ねて申し訳ございませんでした」
「いいのよ、別に謝らなくても。でも、本当に良い天気ね。公園には芝生が沢山生えているからジョナサンの歩く練習をさせてみるのもいいかもしれないわね」
ジェニファーはごまかすために、わざと明るい声で話をする。
「そうですね。私もお手伝いさせて下さい」
無言で歩きながら、シドは仲良く話をしている2人の様子を伺っていた。耳の良い彼には2人の会話が聞こえていたのだ。
(ジェニファー様……やはり、誰にも15年前の話をするつもりはないのか……)
一度も忘れたことが無かったジェニファーとの思い出。
それを無かったかことにされてしまったようで、シドの心に複雑な気持ちが込み上げてくるのだった――
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