3-14 ジェニファーの本音
(ど、どうしてあの時の写真がここに飾られているの……?)
写真の中のニコラスとジェニファーは無邪気な笑顔で映っている。それは失われてしまった大切な思い出。
ニコラスはもう笑顔をジェニファーに向けてくれることは無いし、ジェニファー自身もフォルクマン伯爵家を追い出されてから、心の底から笑うことが出来なくなってしまった。
いつもどこか、空虚な気持ちを抱えて生きていたのだ。
(もう私は……この頃のように笑うことは出来なくなってしまった……)
呆然と写真を見つめるジェニファー。
一方、何も知らないポリーは、楽しそうに想像を膨らませている。
「この子たちは貴族なのでしょうか? 2人とも良い身なりをしていますよね。顔は似ていないので、兄妹では無さそうですね。ひょっとして、お友達同士なのかも……ジェニファー様はどう思いますか?」
「そ、そうね……多分、仲の良い友達同士なのではないかしら?」
何とか返事をするも、冷静ではいられなかった。
「あら? でもこの写真の子達……何処か見覚えがあるような……?」
ポリーが首を捻ったそのとき。
「ポリー。写真も見たことだし、もういいだろう? ジョナサン様はお休みになられたのだから、寄り道はこれくらいにしておけ」
シドがポリーを窘めた。
「あ、そうでしたね。すみません。初めて写真を見たものですから、つい浮かれてしまいました。ジェニファー様にも、申し訳ございません」
ペコリとポリーは頭を下げた。
「別に気にしなくていいのよ。それでは帰りましょうか?」
出来るだけ平静を装いながらジェニファーは返事をし、3人は岐路へ着いた――
城へ到着したのは16時を少し過ぎた頃だった。
メイドの仕事が残っているポリーとエントランスで別れると、シドが声をかけてきた。
「ジェニファー様、お疲れですよね? 部屋まで送ります」
「え? ええ。ありがとう」
返事をするとシドは口元に少しだけ笑みを浮かべ、2人はジェニファーの部屋へ向かった。
「……あの写真、さぞかし驚かれたのではありませんか?」
歩き始めると、すぐにシドが話しかけてくる。
「そうね、驚いたわ。あの写真は私が持っているはずなのに、何故なのかと思ったの。でも考えてみれば不思議なことではないわよね。だって15年前に、あのお店で写真を撮って貰ったのだから。まさか飾られているとは思わなかったけど……シドは、あの店に写真が飾られていることを知っていた?」
「いいえ、知りませんでした。……何しろ、あの写真屋に行くのは15年ぶりですから」
「シドも?」
「はい。そもそも写真を撮ったこともありませんし……何より『ボニート』へ戻って来たのは15年前ですから。でも聞いたことがあります。写真屋では、良く撮れた写真を当人の許可を取って飾ることがあるのだと」
「え……? それじゃ……」
「はい。恐らくニコラス様が写真を飾る許可を出したのかしれません。それともジェニー様自らが返事をした可能性もありますね」
「そうよね……本当は、何故あの写真が飾られているか知りたかったのだけど……」
ジェニファーがぽつりと呟く。
「もしかして、あの写真……飾って貰いたくはないのですか?」
「ええ。飾って貰いたくないわ。だって……あそこに映っているのはジェニーのふりをした私。偽物の写真だから。ニコラスを騙しているようで……申し訳ないの」
「ジェニファー様は何も悪いことはしておりません。元はと言えば最初に、ジェニー様が自分の身代わりになって欲しいと頼んできたことが原因ではありませんか! それに伯爵邸を追い出されたのも、ジェニー様が現像された写真を取に行くように命じたからですよね? 自業自得です!」
いつになく感情を露わに自分の考えを述べるシドに、ジェニファーは驚く。
「ど、どうしたの? シド」
「い、いえ。何でもありません。ですが、もしこの先も写真が飾られるのが嫌であるなら……俺が写真屋に話に行きましょうか?」
「……ええ、そうねシド。お願い出来る?」
ジェニファーは弱々しく微笑むのだった――
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