2−18 シドの話 1
「シドはニコラスの元を離れていたの? 護衛騎士だったのに?」
ジェニファーは首を傾げる。
「そうです。でもその前に、まずは15年前の話からさせてください」
「ええ、お願い」
シドは頷くと、話を始めた。
「今向かっている『ボニート』は、ニコラス様のお母様の御実家があります。15年前、ある事情があってニコラス様は一時的にそこで暮らしていました」
「ある事情って……?」
「15年前『ソレイユ』地域では原因不明の伝染病が流行していました。テイラー侯爵家でも次々と使用人が感染していき、ついにはニコラス様のお父上も感染して倒れてしまいました。幸いニコラス様は無事でしたので感染を避けるために『ボニート』へ一時避難して頂いたのです。それで……」
「私と出会ったのね?」
「そうです。俺も感染していなかったので、ニコラス様の後を追うように『ボニート』へやってきました」
ジェニファーは黙って話を聞いている。
「ジェニファー様が姿を現さなかったあの日、ニコラス様は日が暮れるまで待ち合わせ場所で待っていました。俺はあの屋敷の近くまで様子を見に行ったのですが、訪ねることはできませんでした」
「それは私が‥‥…内緒で屋敷を出てきているからと嘘をついていたからよね?」
ポツリとジェニファーは口にした。
「はい。だから諦めて帰りました。その後も毎日毎日、ニコラス様はジェニファー様をあの場所で待ち続けました。今日こそは必ず来てくれるだろうと言って。俺がいくら止めても聞きませんでした」
「そう……だったの?」
シドの声は寂しげだった。
「それから一か月後、感染病も治まってニコラス様と俺はテイラー侯爵家に呼び戻されました。ニコラス様は侯爵家に戻る前日までジェニファー様を待っていました」
「!」
その言葉に息を飲むジェニファー。
まさか、そこまでニコラスが自分のことを待っていたとは思わなかったのだ。
「侯爵家に戻ったニコラス様は、ジェニファー様の行方をずっと捜しておりました。そして、3年程前にようやくジェニー・フォルクマン令嬢を捜しあてたのです」
「12年もジェニーを捜すのに時間がかかったの?」
「はい、そうです。中々ジェニー様を発見することが出来なかったのは、彼女が公の場に殆ど姿を現さなかったからでした。ニコラス様はフォルクマン伯爵家に手紙を出すと、ジェニー様から是非、会いたいと返信がありました。そこで2人で一緒にフォルクマン伯爵家へ行き、ジェニー様と対面したのです。そしてジェニー様はニコラス様に言いました。『久しぶり、ニコラス。ずっとあなたに会いたかったわ』と」
「ひ、久しぶりって……ジェニーが言ったのね……?」
ジェニファーが声を震わせながら尋ねた。
「はい、はっきりおっしゃいました」
「そ、そう……」
ジェニファーはスカートの裾をギュッと握りしめた。
(やっぱり、ジェニーは一度も会ったことの無いニコラスに恋をしていたのだわ。だから、あたかも久しぶりの再会のような言い方をしたのね……自分が本物のジェニーだと思わせるために……だけど……)
ジェニファーはニコラスがずっと好きだった。忘れらない初恋の相手であり、髪の色も瞳の色も覚えていたのだが……。
「確かに私とジェニーはそっくりみたいだけど……瞳の色が違うわ。ニコラスはそのことを忘れてしまったのね……」
そのことが、ジェニファーにはとても悲しかった。
「ジェニファー様。ニコラス様が、瞳の色の違いに気付かなかったのには……ある理由があるのです」
「理由?」
「はい、それは……」
シドは衝撃的な話を口にした――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます