2−7 集められた使用人たち 1

 ジョナサンをベビーカーに乗せ、ジェニファーとポリーは急ぎ足でホールへ向っていた。既にすべての使用人たちはホールに集まっているのか、廊下は静まり返っている。


「一体、何が起こったのでしょう? 私、まだこのお屋敷で働き始めて半年しか経っていないんですよ」


ポリーがオロオロしながら自分のことを語った。


「そうですね。でもホールに行けば、何が起きているか分かるはずです」


けれどジェニファーには、何となく想像がついていた。恐らく使用人を集めたのは自分が原因なのではないだろうかと。


やがてホールの入口が見えると、扉が大きく開け放たれている。

2人でそっと覗き込むとホールの中は使用人たちで埋め尽くされ、どれくらいの人数が集まっているのか想像もつかなかった。

そして窓を背に、使用人たちと向かい合わせに立っているニコラスの姿がある。その背後には執事のモーリスと、年配のメイドもいる。


「ジェニファー様はジョナサン様を連れていらっしゃるので中に入らないほうが良いと思います。私だけ様子を見てまいりますね」


ジェニファーが頷くと、ポリーは足音を立てないように使用人たちの一番最後尾に並んだ。

まだニコラスからの話は始まっていないのか、ホールには緊張感が漂っている。


 ニコラスは使用人全員を見渡した。


「人数が少いな……全員揃っていないのか?」


すると、モーリスよりも年長の男性が口を開いた。


「恐れながら……ニコラス様。急な招集でしたので、どうしても連絡が不行届な者や持ち場を離れられない者も多くおりますので……」


「そうか、なら仕方がない。それではお前たち、よく聞け! 今、眼の前にいる執事長とメイド長は当主である俺に歯向ったのだ! そこで2人を即刻解雇することにした。何か異論がある者は、この場で遠慮なく手を上げろ! どんな意見でも聞こう!」


すると、一瞬その場がざわめく。

その様子をジェニファーは、ハラハラしながら見守っていた。


(まさか、こんな場面で異論を唱える人が現れるはずないのに……)


ところが……。


一人の執事が手を上げた。彼はモーリスの忠実な部下であり、彼同様日頃からニコラスをよく思っていなかったのだ。


ニコラスはその執事を見つめた。


「異論があるようだな? ではお前の意見を述べてみろ」


ニコラスが穏やかに尋ねてきたからだろう。その人物は、自分の意見を述べ始めた。


「恐れながら、ニコラス様。執事長とメイド長は先代の頃からこのお屋敷に務めて、40年以上になります。ですがニコラス様は一昨年当主になられたばかりで、このお屋敷のしきたりや内情をあまり良くご存知ではありません。お二人がいなくなると、屋敷の管理が行き届かなくなってしまいます。どうか一時の感情に流されず、よくお考え下さいませ」


「!」


その言葉はとても大きく、離れた場所にいたジェニファーにも聞こえた。


(あ、あの人は一体何を言っているの……? 仮にもニコラスは当主だと言うのに、あんな反抗的な言葉を口にするなんて……! きっと、さぞかしニコラスは怒るに違いないわ)


この屋敷へ来てから、ジェニファーはまだニコラスが一度も笑った顔を見たことがない。


だが……。


「なるほど……そうか。それがお前の異論なのか」


ニコラスは口元に笑みを浮かべた――



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