2−5 ニコラスの決定

 ニコラスが部屋に戻ると、執事長のモーリスが出迎えた。


「ニコラス様、出発の準備は全て整えております」


「……モーリス」


ニコラスはモーリスを睨みつけた。


「はい、何でございましょう」


「今、ジョナサンの様子を見に行ってきたが……ジェニファーはジョナサンを連れて洗濯をしに行こうとしていたんだぞ? それどころか食事はパンとスープのみだった。着ている服だって、まるで使用人以下のように乏しいものだし……あれで侯爵夫人と言えると思っているのか!? 何故あのような待遇をしている!」


「それはジェニファー様が自分から言い出したことです。自分の洗濯は自分でする。食事はパンとスープで良いと。我々はその言葉に従ったまでです」


眉一つ動かさずにモーリスは答える。


「お前は本気でそんなことを言っているのか? 何処の世界に自ら望んでそんな申し出をする者がいるんだ? そう言わざるをえない環境を作ったからではないのか?」


「お言葉を返すようではありますが……ニコラス様がそれを望んでいたのではありませんか?」


「……何だと?」


その言葉に反応する。


「あれほど、ニコラス様はジェニファー様を恨んでいたではありませんか? あの温和なフォルクマン伯爵でさえ、ジェニファー様の話になると怒りを顕にしていました。所詮、そのような人物なのですよ? それなのにニコラス様は我らの反対を押し切って、あの方を後妻に迎え入れたではありませんか?」


「それはジェニーの遺言だったからだ!」


「だからですよ」


「何?」


モーリスは冷たい笑みを浮かべる。


「ただでさえジェニー様はお身体の弱い方でした。それなのに精神的に、あの者は追い詰めていったのですよ? 外見はジェニー様にそっくりではありますが、とんでもない悪女です。どうせ自分から後妻に入れるように、心優しいジェニー様に命じたに決まっています。そのような者に少々罰を与えて何が悪いのですか?」


「何だと? モーリス……お前は本気でそんなことを言っているのか!?」


ついに我慢できず、ニコラスは声を荒げた。


「ええ、本気です。メイド長も同じ考えです」


相変わらず顔色一つ変えないモーリス。


「……そうか、分かった。今、メイド長も同じ考えだと言ったな?」


「はい」


「なら、お前とメイド長を解雇することにしよう」


「え!? な、何ですって!?」


この時になり、初めてモーリスの顔が青ざめる。


「当主の考えに反抗的な者はこの屋敷には必要ない。当然だろう?」


「ほ、本気で仰っておられるのですか!? 私は先代の御主人様の代から、この屋敷で執事として働いていたのですよ!? その私を解雇すると仰るのですか!?」


「そうだ。以前からお前とメイド長は身勝手な振る舞いが多かった。何しろ、お前たちは俺が当主になるのが気に入らなかったのだろう? ジェニーのことは大切にしていたから、今まで多目に見ていたが……もう我慢の限界だ。今、ここでお前たちはクビだ」


ニコラスは冷たく言い放った――


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