1−13 到着、そして……
『ドレイク王国』は巨大な交易都市で、ジェニファーの住む国からは遠く離れていた。
2日かけて汽車を乗り継ぎ、大きな船着き場がある港へたどり着く。そこからさらに船で5日乗ると、ようやくニコラスの住む国へ到着した。
――13時
1週間の旅を終えて港へ到着した頃には、ジェニファーは疲労と船酔いでぐったりしていた。
「や、やっと到着したわ……」
フラフラになりながら船を降りると、港のベンチに座り込んだ。
(きっとニコラスは私の為に少しでも快適な旅が出来るように、旅費として大金をくれたのね……なのに、私ったら……)
小切手はアンに奪われてしまった。
せっかく自分の為にニコラスが大金を用意してくれたのに、活かすことが出来無かった。そのことがジェニファーは申し訳なくてたまらずにいた。
旅費を節約する為に、指定席も買わずに混雑する車両と雑魚寝しか出来ないような船の中で5日間を過ごしたジェニファー。
ひとりきりで窮屈な旅は若い女性のジェニファーにとっては不安でならなかった。
(最初はどうなることかと思ったけど無事に到着できて本当に良かったわ……きっと、神様が見守ってくださったのね)
少しの間ジェニファーは、荷物を抱えたままベンチに座って身体を休めていたが、ショルダーバッグからニコラスの手紙を取り出した。
「ニコラスが住んでいるところは、ここから離れているのかしら……」
手紙に目を通しながら、ジェニファーはポツリと呟く。
手持ちのお金は、もう殆ど無くなっていた。
「馬車のお金……間に合うかしら」
不安な気持ちで、ジェニファーはポツリと呟くのだった――
****
――同日、15時半。
家督を継いだニコラス・テイラーは書斎で仕事をしていた。
27歳になったニコラスは、周囲の目を引くほどの美しい青年に成長していた。
妻のジェニーが昨年、出産と同時に亡くなってからは、ひっきりなしに縁談の話が舞い込んでくるありさまだったがニコラスは一切の興味を示すことは無かった。
自分の妻は、生涯ただ1人。
愛するジェニーだけだと決めていたからである。
あの遺言状を目にするまでは……。
「……ふぅ」
書類にサインを終えたニコラスはため息をつき、ペンを置いたその時。
――コンコン
『旦那様、少々よろしいでしょうか?』
ノック音と伴に、扉の外から声をかけられた。
「ああ、いいぞ」
返事をすると扉が開かれ、長年ドレイク家に使える初老の執事、モーリスが現れた。
「お仕事中、失礼いたします」
執務室に入ると、モーリスは恭しく挨拶をする。
「どうかしたのか?」
いつもと少し様子が違うモーリスの変化に気付いたニコラスは質問した。
「はい。実は……ジェニファー・ブルックと名乗る御婦人が、ニコラス様にお目通りを願って訪ねておられるのですが……」
「何だって? ジェニファー・ブルックが現れのか?」
ニコラスは眉間にシワを寄せる。その表情は誰が見ても喜んでいるようには見えない。
「はい、まだ屋敷内にはお通ししておりません。辻馬車と外でお待ち頂いております」
「辻馬車と……? 一体どういうことだ?」
理解できずに、ニコラスは尋ねた。
「はい。対応したドアマンの話によると、御婦人は旅費を全て使い切ってしまったそうです。そこで辻馬車代を支払うお金が足りなくなってしまい、不足分をこちらで払って貰えないかと願い出てきたそうです」
その言葉に、ニコラスは舌打ちした。
「チッ! 旅費として十分過ぎる程小切手を渡してやったというのに、馬車代が払えないだと? どうせ遊ぶ金に使ってしまったのだろう……ジェニファー・ブルックは遊び歩くのが大好きだとフォルクマン伯爵が話していたからな」
イライラした様子のニコラスにモーリスは声をかけた。
「旦那様、いかがいたしましょうか?」
「俺が直接行く」
ニコラスが席を立った。
「え? 旦那様が直接ですか?」
「ああ、そうだ。何事も始めが肝心だからな。自分の立場を分からせるためにも俺が自ら赴く」
ニコラスの目には怒りが宿っていた――
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