1−12 サーシャの気遣い、そして旅立ち
――その日の夜
「何ですって!? お母さんに小切手を取られてしまったの!?」
部屋にサーシャの驚く声が響き渡る。
「お、お願い。あまり大きな声を出さないで。叔母様に聞かれてしまうわ」
ジェニファーはオロオロしながらサーシャに声をかける。
「別に聞かれたっていいわよ! 事実なんだから。自分の親ながらイヤになるわ。はっきり言って犯罪よ! かと言って、取り返すのは難しいわね……本当にごめんなさい。ジェニファー」
「え? 何故あなたが謝るの?」
「だって……いつもいつもお母さんはジェニファーに酷いことばかりしているし……」
「いいのよ、サーシャは何も悪くないもの」
けれど、小切手を取られてしまってはニコラスの元に行くことが出来ない。
ジェニファーがサーシャの為にコツコツ貯めた貯金を全額投じても旅費には満たない。かと言ってニコラスに手紙でお金のことを告げることは出来なかった。
あの手紙の文面では、とてもではないが金銭の相談は無理だった。
思わずため息をつくと、サーシャがそっとジェニファーの両手を包みこんできた。
「大丈夫よ、ジェニファーにも貯金があるのでしょう? 実は私もお金を貯めていたのよ。2人のお金を足せば、旅費を工面できるはずよ」
「え? そんなこと駄目よ!」
その言葉にジェニファーは驚いて首を振る。
「いいのよ。ジェニファーが貯金してくれていたのは知っていたわ。でもそれは私達のためでしょう?」
「そ、そう……よ」
「私もね、ジェニファーのためにお金を貯めていたのよ。だからこれを使って」
サーシャはポケットに手をいれると、麻袋を手渡してきた
「これは……?」
「私が貯めたお金、金貨5枚入ってるわ」
「ええ!? 金貨5枚!」
驚いて、ジェニファーは中身を確認すると確かに金貨が5枚入っている。
「私が貯めた全財産、こんなこともあろうかと思って今日銀行から引き出してきたのよ」
「だ、だけど……こんな大金……」
「いいのよ。だって私達、ジェニファーのお陰で今があるのよ? あんな母親だけだったら、今頃どうなっていたか分からないわ。このお金を使って、旅費の足しにして頂戴?」
サーシャは笑顔を向ける。
「サーシャ……あ、ありがとう」
「実はね、これだけじゃないのよ」
サーシャは立ち上がると、自分のロッカーの扉を開けて洋服を取り出した。
濃紺のボレロに丈の長いスカートはとても上品なデザインだった。
「まぁ、素敵な洋服ね。まさか……サーシャの手作りなの?」
「ええ、そうよ。私が初めて自分で作った服なの。ジェニファーにいつかプレゼントしようと思ってね。ニコラス様の元へ行く話を聞いてから、急いで仕上げたのよ」
その言葉にジェニファーは驚いた。
「私の為に作ってくれたの? そう言えば、以前身体のサイズを測らせてと言われたことがあったけど……まさか、このためだったの?」
「勿論よ。だってジェニファーはいつも着古した服ばかり着ていたでしょう? ニコラス様に会うのなら、それなりの服を着なくちゃ」
「サーシャ……ありがとう!」
ジェニファーの目に涙が浮かび、サーシャを抱きしめた。
「ジェニファー。幸せになってね?」
サーシャも涙を浮かべながらジェニファーを抱きしめる。
2人は暫くの間、互いの身体を抱きしめ合うのだった……。
――その翌日
ジェニファーは僅かばかりの荷物を手に、1人でニコラスの待つ『ドレイク王国』へ向った。
希望と不安を胸に抱いて――
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