1-4  物陰から見る者

 その日の夕食の席――


「はぁ〜……また野菜ばかりのシチューなのね」


料理を口にしながら、アンがため息をつく。


「何言ってるの? 少しだけど、お肉だって入っているわよ。ね、ニックもそう思うでしょう?」


サーシャがニックに同意を求める。


「そうだよ! ほら、この中に小さな肉が入ってるんだからな!」


ニックがスプーンでシチューをすくうと、口に入れた。


「このシチュー美味しいね」

「僕、ジェニファーの料理大好きだよ!」


トビーとマークが口々に言うが、それもアンは気に入らずにジェニファーを睨みつけた。


「何よ! 全く、皆揃ってジェニファーの肩ばかり持って気に入らないわ……!」


するとダンの声が部屋に響いた。


「それは当然だろう? 俺達は皆、ジェニファーに育てられたようなものなのだから」


「あ、ダン! お帰りなさい」


ジェニファーが椅子から立ち上がる。


「お帰りなさい、ダン」

「お帰り」

「お帰りなさい、お兄ちゃん」


ジェニファーに続いて、サーシャに双子たちもダンに声をかける。


「お帰り、今日の稼ぎはどうだったのかしら?」


アンがダンに目もくれずに尋ねた。


「大丈夫だよ、ちゃんと小麦は全て売ってきた」


ナップザックを背中から降ろしながらダンが返事をした。


「ごめんなさい、ダン。あなたの帰りが遅くなると思って皆で先に食事していたの。すぐに用意するわ」


「いや、それくらい自分で用意できるからいいよ」


台所に行こうとしたジェニファーをダンがとめる。


「そういうわけにはいかないわ。ダンは働いて帰ってきたのだから」


「ジェニファーだってそうだろう? なら、2人で一緒に準備しよう」


「そうね」


ジェニファーとダンは2人で一緒に台所へ向った。



「ごめん。ジェニファー」


2人で食事の用意をしていると、ダンが謝ってきた。


「え? 急にどうしたの?」


「おふくろのことだよ。親父が2年前に病気で死んでから、増々きつくジェニファーに当たるようになった……本当に悪いと思ってる」


「そんなこと気にしないで。叔母様も悲しみが癒えないのよ。……大切な人を失うって、とても辛いことだから」


ジェニファーは今日届いたジェニーの手紙を思い出し……再び悲しみがこみ上げてくる。


「どうしたんだ? 何かあったのか?」


「別に何も無いわよ」


「嘘言うなよ、今泣きそうな顔になっていたぞ?」


「フフ、変なこと言うのね。ダンは。あ、シチューが温まったわ。ダン、お皿を貸して」


「あ、ああ」


ダンから皿を受け取るとき、2人の手が触れた。すると、その手をダンが握りしめてきた。


「え……? どうしたの? ダン」


「……ジェニファー」


「何?」


「2人でこの家を出ないか?」


「え!? 突然何を言い出すの!?」


「別に突然てわけじゃない。もう見ていられないんだよ。ジェニファーが理不尽におふくろにこき使われたり、八つ当たりされるのが耐えられないんだよ。俺と2人で小さな家でも借りて住めば、もう口うるさいおふくろと離れられるじゃないか?」


「そんなこと、出来ないわ。私達がこの家を出たら、生活はどうするの?」


「サーシャだって、今はお針子の仕事で収入を得ているし、俺達が仕送りすればいい」


「サーシャはもう成人年齢だけど、ニックやトビーにマークはどうするの?」


「……それは……」


「ダン、そういう話は結婚を考える女性にするのよ? 皆のところに戻りましょう?」


シチューを皿によそったジェニファーはダンに笑顔を向けた。


「あ、ああ……そうだな。行くか」


2人は台所を出ていくと、物陰からアンが出てきた。


「ダン……まさか、ジェニファーを……? そうはさせるものですか……」


アンは憎悪の眼差しをジェニファーに向けるのだった――

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