1-3 辛い報告

「ジェニー……そ、それにニコラスと結婚したなんて……」


手紙を持つジェニファーの手が震える。

12年前、ジェニーに別れを告げることも出来ないまま、追い出されてしまったジェニファー。


そこから、2人のやり取りが一切交わされることは無かった。

何度も手紙を出そうと考えたが、アドレスが分からなかった。それに、ジェニーから便りが無いのも自分を憎んでいるからだろうと思っていたからだ。


それが12年の歳月が流れて、いきなり届いた素っ気ない手紙。

しかも相手はジェニファーの初恋の相手だったのだから、受けたショックは計り知れない。


「いつの間に……2人は知りあいになっていたの……?」


一体どういう経緯でジェニーとニコラスが出会ったのか、ジェニファーには全く検討がつかなかった。


「そ、それに……結婚なん……て……」


ジェニファーの目に涙がたまる。

身分違いなのは分かりきっていた。自分がニコラスの相手になれるとは到底思っていなかった。

恐らく誰か身分の高い女性と結婚するだろうとは思っていたけれども……それがまさかジェニーだったとは思いもしなかった。


「どうして……今まで連絡も無かったのに……こんな突然手紙を……ニコラスとの結婚を知らせる手紙なんて……」


しかも、この手紙は結婚するという知らせの招待状などではない。既に結婚した報告の手紙だ。

もっとも、結婚式の招待状を貰ったとしても参加することは不可能だった。

ドレスも無ければ、お祝いも用意できない。旅費も出せないし、何よりフォルクマン伯爵からは憎まれているのだから。


「……出来れば……知りたくなかったわ……」


辛い人生ばかり送ってきたジェニファーには良く分かっている。

世の中には、知らないほうが幸せだったと思えることが山程あることを。


それでもジェニーもニコラスも大切な存在であることに代わりはなかった。

アドレスが無いので、返事を書くことも出来ない。


(きっと、私にはもう二度と会いたくないってことよね。だからアドレスも書かずに手紙を送ってきたのだわ)


ジェニファーは短い手紙をバッグに大切にしまうと、重い足取りで家の中へ入っていった。


心のなかで、ジェニーとニコラスの幸せを祈りながら――



****



「お帰りなさい! お姉ちゃん!」

「お帰りなさい!!」


家の中に入ると双子の兄弟、トビーとマークが駆け寄ってっきた。


「ただいま、トビー。マーク」


足元にしがみついてきた、可愛い双子の兄弟の頭をなでているとアンがやってきた。


「何をしていたのジェニファー! 今日はいつもより15分遅かったじゃないの。2人がお腹を空かせてお前の帰りを待っていたのよ。さっさと何かおやつを出してあげなさい!」


「ご、ごめんなさい。叔母様」


「全くグズなんだから……あら? どうしたの、目が赤いじゃないの」


アンがじっとジェニファーの顔を見つめる。


「あ、これはさっき目にゴミが入ったんです」


ゴシゴシと目をこすって、無理に笑顔になるジェニファー。


「あら、そう。さっさと用意しなさい……何よ。2人で睨んだりして」


アンは自分を睨みつけている双子の我が子を見つめた。


「ジェニファーをいじめるなよ!」

「そうだそうだ!」


あろうことか、トビーとマークはジェニファーを庇って自分の母親に文句を言った。


「な、何ですって! あんたたち! 私はあんた達の母親なのよ!」


しかし、双子はジェニファーの足にしがみついてアンを睨みつけている。


「……くっ! な、何よ! 可愛げのない!」


アンはイライラした足取りで、部屋の奥に戻っていった。


「「お姉ちゃん……」」


心配そうにジェニファーを見上げるトビーとマーク。


「さ、行きましょう。クッキーをあげるわ」


「「うん!!」」


ジェニファーは双子を連れて台所へ向った。


(そうよ、この家には私のことを思ってくれている人がいる。だから大丈夫よ……)


自分自身にそう、言い聞かせた――

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