3−20 シドの見送り

「「……」」


ジェニファーとシドは互いに無言で町の出口を目指して歩いていた。

少しだけ自分の後ろを歩くシド。

それがジェニファーにとっては何とも落ち着かなかった。


「あ、あのシドさん……」


「言っておきますけど、隣を歩くのは遠慮します。俺はあくまで従者ですから。それに、さん付けではなくシドと呼んで下さい」


淡々と話すシド。

けれど、明らかに自分より年上の少年を呼び捨てするには気が引けた。


「でも……」


けれどムスッとした様子で後ろをついて歩くシドに、ジェニファーはそれ以上声をかけることが出来なかった。


(ニコラスとだったら、楽しくお話できるのに……)


早く、シドの見送りから解放されくてジェニファーは足を早めたいが膝の怪我が痛くて早く歩くことも出来ない。


そのまま無言で、2人は町を出て丘を目指した――



「あの、もうここまででいいから」


丘を登りきった先に、大きな屋敷が見えるとジェニファーは足を止めてシドを振り返った。


「……あの屋敷がジェニー様のお宅ですか?」


無表情でシドが尋ねる。


「うん。そうよ」


(本当は私の家では無いけれど……住まわせてもらってるのだから嘘は言ってないわよね)


ジェニファーは無理に自分にそう言い聞かせる。


「分かりました、では明日ここまで迎えに来ます。何時がよろしいですか?」


「え? それなら……13時半でもいいかしら?」


「13時半ですね? 分かりました。ではまた明日ここまで来ます」


シドはそれだけ言うと背中を向け、再びジェニファーを振り返った。


「ジェニー様」


「な、何?」


一体何を言われるのか分からず、緊張しながら返事をした。


「足を怪我されているのではありませんか? 帰ったらあまり無理はしない方が良いですよ」


「え!? 気付いてたの?」


「勿論です。歩き方がぎこちなかったですから。……明日は会うのを控えた方が良いのではありませんか? 俺からニコラス様に伝えておきますよ?」


そしてジッと見つめてくる。


「……そうね。その方がいいかも」


毎日外出していれば、それだけジェニーをひとりぼっちにさせてしまう。それに元々ジェニファーがここに招かれたのは病弱なジェニーの話し相手になるためなのだから。


「分かりました。では明後日、迎えに参ります。それではお大事にして下さい」


シドはそれだけ告げると駆け足で去って行き、あっという間に見えなくなってしまった。


「すごい……シドって足が早かったのね」


そして、気付いた。

今までシドは自分に歩調をあわせてくれていたのだということを――




****



「おかえりなさい、ジェニファー。今日は帰りが遅かったじゃないの」


ジェニーが少しむくれた様子でジェニファーを迎えた。


「ごめんなさい。今日は写真を撮ったから遅くなっちゃったの」


「え? 写真撮ったなのね? それでいつ頃出来るのかしら?」


写真という話で、途端にジェニーの機嫌が良くなる。


「10日後ですって」


「10日後か〜 ……やっぱりそれくらいかかるのね。でも仕方ないわね」


ジェニーはため息をつくと、ソファに座った。


「やっぱり驚かないのね。写真が出来るのに10日かかるってこと」


「ええ。別に驚かないけど? それでジェニファー。明日もニコラス様と会う約束しているの?」


その言葉は何処か少し寂し気に聞こえる。


「ううん、明日はジェニーの傍にいようと思うの」


「本当!? 明日は一緒にいてくれるのね?」


途端ジェニーが笑みを浮かべた。


「でも明後日の約束はしてしまったけど……駄目かしら?」


伏し目がちにジェニファーは尋ねた。


「それって、ニコラスが会いたいと言ってきてるのかしら?」


「うん、そうなの」


「……分かったわ。だってニコラス様は私にブローチをプレゼントしてくれた方だものね。それじゃ、明後日は会いに行っていいわ」


「本当? ありがとう、ジェニー。大好きよ」


ジェニファーはジェニーに抱きついた。


「私もジェニファーが大好きよ」


この頃の2人は固い友情で結ばれていた。


……少なくともジェニファーはそう、信じていたのだった――

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