3−19 少しの嘘

――16時


ようやく2人の写真撮影が終わり、早く写真がみたいジェニファーは店主に尋ねた。


「すみません。写真はいつ出来上がりますか?」


「そうですねぇ……10日もあれば引き渡しできます」


「え!? 写真の出来上がりって10日もかかるんですか!?」


予想もしていなかった日数にジェニファーは驚きの声を上げてしまった。


「申し訳ございません。これでも以前に比べれば、大分日数が早くなったのですけど……」


店主が申し訳無さそうに謝ると、ニコラスがジェニファーに声をかけてきた。


「ジェニファー。もしかして写真がどの位で出来上がるか知らなかったの?」


「え? ええ……知らなかったわ」


「それじゃ、写真を撮ったのは初めてだったの?」


「そ、そんなことないわ。前も撮ったことがあるけれど、そのときはあまり写真が気にならなかったからなの」


ジェニーが写真を撮ったことがある話を思い出し、必死で言い訳をするジェニファー。


「そうだったんだ。でも今は興味を持ったということなんだね?」


「それは勿論。ニコラスと一緒に写真を撮ったからよ」


「そう言って貰えると嬉しいな。僕も10日後が待ち遠しいよ」


ニコラスは笑顔でうなずくと、次に店主に金貨4枚を差し出した。


「写真代です、お願いします」


「はい、まいどありがとうございます」


ニコラスが金貨を払う姿を見て、ジェニファーは驚いた。


「待って! ニコラス、写真なら自分で払うわ!」


「駄目だよ。 僕が払うよ、ジェニーにプレゼントさせてよ」


「私に……? あ、ありがとう……」


プレゼントという言葉にジェニファーは嬉しくなり、顔がつい赤くなる。


「うん、プレゼントだよ。それじゃ、行こう」


ニコラスの言葉にジェニファーは頷くと、3人揃って写真屋を後にした――



****


「ニコラス、私もう帰らないと」


写真屋を出るとすぐにジェニファーはニコラスに声をかけた。


「え? 今日もなの?」


「ええ、遅くなると心配されてしまうから」


「そうなんだ……もう少し一緒にいられると思ったのに、残念だな。でも明日も会えるよね?」


「う、うん。勿論会えるわ」


「また明日も1人で町に出てくるつもりですか?」


するとシドがジェニファーに尋ねてきた。


「え? そうだけど……」


「1人で出掛けるのは危ないのではありませんか? 現に今日、危険な目に遭いましたよね?」


「あ……」


その言葉に、ジェニファーは青ざめた。


(そうだったわ、シドさんがいなければ私……どうなっていただろう?)


「そうだね。確かにシドの言う通り心配だな……ジェニー。誰かついてきてくれそうな人はいないの?」


ジェニファーは首を振る。


「……いないわ。皆忙しいから。それに……」


(私はジェニーじゃないもの。私に付き添いしてくれる人なんて誰もいないわ。第一付き添いをしてもらえば、私が偽物のジェニーだってバレてしまうもの)


「それにって……。何か他に理由があるのですか?」


シドが追求してきた。


「そ、それは……」


「ジェニー。僕たち、友達だよね? だから隠し事はしないでもらいたいんだ」


ニコラスがじっと見つめてくる。


(そうだわ、今の私はジェニーなのだから。ニコラスに嫌われるわけにはいかないわ。だったら……)


そこでジェニーは嘘を交えた本当のことを話すことにした。


「あ、あのね……本当は私、お父様から外は危ないから外出することを禁じられているの。だから、誰にも付き添いを頼めないのよ」


「え? それじゃ今まで内緒で出てきていたの? 家に早く帰らないといけないのも、お父さんに見つからないためだったの?」


ニコラスが驚きの表情を浮かべる。


「そう、そうなのよ!」


「そっか……それなら付添頼むのは無理だよね。屋敷まで迎えに行くのも……」


ニコラスは明らかに落胆した様子を見せる。

すると、2人のやり取りを聞いていたシドが口を開いた。


「……だったら、俺がジェニー様のお屋敷の近くまで送り迎えしましょうか? ニコラス様は別の従者をつければよいではありませんか」


「そうか、その手があったか。なら、そうしよう!」


シドの提案にニコラスは頷くと、ジェニーに向き直った。


「ジェニー、それじゃ早速今日からシドに屋敷の近くまで送ってもらいなよ。 シドがいれば安心だよ」


「え? で、でもそれじゃニコラスが1人になってしまうわ」


「僕なら大丈夫。だってここから城まで近いし」


ニコラスの言う通り、写真屋から城まではそれほど遠く離れているようには見えなかった。


「本当に……いいの?」


「勿論だよ。それじゃ、シド。直ぐに送ってあげてよ」

「分かりました、ニコラス様。では、参りましょう、ジェニー様」


「は、はい……またね、ニコラス」

「うん。また明日ね」


こうしてジェニファーはシドに送迎を見守られることが決定したのだった――



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