3−18 写真屋

 3人は町の写真屋へ向っていた。


ジェニファーとニコラスが並んで歩き、その数歩後ろをシドがついて歩いている。


(どうしてシドさんは後ろを歩いているのかしら?)


不思議に思ったジェニファーは後ろを振り返り、シドに声をかけた。


「シドさん、どうして後ろを歩いているの?」


すると一瞬、戸惑いの表情を浮かべてシドは答えた。


「俺は後ろで良いんですよ。何しろ従者ですから」


「そうだよ、専属護衛と言ってもシドは従者だからね。従者って、普通は隣をあるかないだろ?」


「そ、そうね。言われてみればそうだったわね」


ニコラスに同意を求められて、慌ててジェニファーは返事をした。


(いけないわ、今の私はジェニーなのだから。従者がどういうものか知らないと変に思われてしまう)


「ところでジェニー。昨日僕がプレゼントしたブレスレットはどうしたの?」


「え? あのウサギの形のブレスレットのことよね?」


「そうだよ。すごく気に入ってくれていたから……てっきり今日つけてきれくれるかと思ったんだけど……」


ニコラスの声は少し寂しそうだった。


「あ、あのね。とても気に入ったから無くさないように大切に宝箱にしまってあるのよ」


慌てて弁明するジェニファーの脳裏に、嬉しそうにうさぎのブローチを見つめているジェニーの姿が思い浮かぶ。


(本当は、私もあのウサギのブローチが欲しかった……だって、私が気にいった物だったし、ニコラスからのプレゼントだったのだから)


ジェニファーの暗い気持ちとは裏腹に、ニコラスは笑顔になった。


「そうなんだ、気に入ってくれたんだね? それなら良かった。だったらいずれまたブローチをつけた姿を見せてくれたら嬉しいな」


「そうね。いつかまたね」


返事をしたものの、ジェニーにブローチを借りたいとは言い出せそうに無かった。


(同じブローチが売ってれば自分で買ってニコラスの前でつけてみせるのに……)


「……」


そんな2人の会話を、後ろをついて歩くシドは黙って見守っていた――



****


 3人は町で唯一の写真屋に来ていた。


「え!? ジェニーは一緒に写真を撮らないの!?」


写真屋にニコラスの声が響き渡る。


「ええ、私は撮らないわ。ニコラスだけ撮って貰ってくれる?」


「どうして! 2人で一緒に写真を撮るために来たんじゃなかったの? 僕だけ撮るなんて変だよ!」


ニコラスの言うことは尤もだった。


「何故、ニコラス様だけを撮ろうとしているのですか?」


シドが尋ねてきた。


「あ、あの……そ、それは……」


(困ったわ……何て説明すればいいのかしら)


ジェニファーだってニコラスと一緒に写真に写りたい。けれどジェニーからはニコラスだけを撮影してくるように言われている。

何としても自分は映るわけにはいかなかった。


「あの〜……私はどうすればよろしいのでしょうか?」


一方、写真屋の男性店主はカメラを手にオロオロしていた。


「ジェニー……僕と一緒に写真に映りたくないの? 僕は一緒に撮りたいよ」


ニコラスが訴えてくる。


「わ、私……ニコラスだけの写真を額に入れて、飾りたいの! 肖像画みたいに! だからそのためにはニコラスだけの写真が欲しいのよ」


「え? ぼ、僕の写真を飾りたい……? だけど……やっぱりジェニーと一緒に撮りたいよ。僕もその……ジェニーとの記念写真が欲しいから」


少しだけニコラスの顔が赤くなる。


「ニコラス……」


すると見かねたシドが提案してきた。


「だったらまずはニコラス様だけが写真を撮って、次にお二人で一緒に写真を撮れば良いではありませんか?」


「そうだ! それがいいよ!」


ニコラスの顔がパッと明るくなる。


「そうね、でも……」


ジェニファーの手持ちのお金は金貨5枚、写真1枚を撮るのにどれだけお金がかかるか検討もつかなかった。


「写真1枚撮るのに、お金はいくら必要ですか?」


再びシドが助け舟を出すかのように店主に尋ねた。


「え? 1枚で金貨2枚になりますね」


「金貨2枚……わかりました。ではニコラスが撮った後、もう1枚撮って下さい」


ジェニファーは笑顔で店主にお願いした。


「ええ、分かりました。では最初はまずお坊ちゃまから撮影をしますね」


店主は笑顔で返事をした……。



**



 ニコラスが写真を撮影してもらっている様子を、ジェニファーとシドは見守っていた。


笑顔でニコラスを見ているジェニファーにシドが小声で話しかけてきた。


「随分嬉しそうですね?」


「ええ、だって私も写真を撮ってもらえるから」


「……だったら、何故最初からニコラス様と一緒に写真を撮ろうと思わなかったのですか?」


「え! そ、それは……」


じっと見つめてくるシドに、ジェニファーは返答に困った。

本当の事を言うわけにもいかず、良い言い訳も考えつかない。


すると……。


「ま、別に構わないですけどね。俺には関係ない話ですから」


「……」


シドの言葉に、ジェニファーは何も言えず……俯くのだった――


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